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みよさんは誠助さんが書いた手紙を読んで、「お前だなんて(笑)、大正生まれの人だなあと思いました」とコメント。陽射しが差し込んだ1月のある日、ご自宅の縁側にて。


60歳代後半に
入った今こそ、感謝の
気持ちを伝えたい。

K&Wさん 会社役員
65歳 結婚41年 酒田市在住


 この恋文の依頼を軽い気持ちで承諾したものの、いざ原稿用紙に向かってみると、何をどう伝えたらよいのか、焦る気持ちとは裏腹に、時間ばかりが経過していきました。
  私たちが結婚したのは、町内の公民会での結婚式が奨励されていた時。その風潮に逆らって、私たちは市内の料亭で披露宴を開催したものです。また新婚当時は、両親と一緒の生活が当然と考えていたため、同居生活中に2人だけでじっくりと対話した記憶はなく、生活に追われていたことだけが頭に浮かびます。
  あれから40年。現在は、子ども3人、孫4人を持つ身となりました。先日この機会にと、しまっていた結婚式と新婚旅行の写真を取り出してみたら、白黒写真あり、カラー写真ありで、ちょうど写真形態が変わる時代の節目に結婚したんだなと、興味深く眺めました。月日の経つ速さに改めて驚きを感じます。
  生まれも育ちも生活環境もまったく違う2人が、何かの縁で知り合い、一緒になり、今を生きる。わが妻は、朝・昼・晩の食事から洗濯、掃除など家事全般を守りながら、一番身近で一番自分を理解してくれてきました。そんな妻に対して、感謝の気持ちを持っていたかと改めて自問自答してみれば、ずばり…「薄かった」というのが正解で、ただ今、後悔の念の真っ最中です。かといって、妻に感謝の気持ちを伝えてといわれても、この想いを言葉にするのは大変難しい。でも60歳代後半に入った今こそ、この紙面を借りて感謝の気持ちを少しでも届けたいです。
  毎日、おいしい料理を作ってくれて、ありがとう。おまえの作る料理は最高!! これからは、自分の体にも気を配りながら、共にゆっくり歩んでいこう!!


64年間にわたる
私の演劇人生を、
共に生きてくれた妻へ。

山崎誠助さん 劇団「麦の会」主宰
96歳 結婚64年 鶴岡市在住


 96歳の私に、「恋文」を書けという。誰にと聞いたら、お前にだそうだ。61年、劇作家生活をやっているが、正面切って恋文を書いた覚えはまったくない。
  まして、お前に対してだ。
  お前と結婚して64年を経たはずだ。その間を振り返って「無事是富貴」、この言葉に尽きるような生活を送っている。夫婦の暮らしにいささかの波風もなかったといえば、嘘になるかもしれないが、ほぼそれに近いような日常だったことは、お前も異存があるまい。
  それについて、思い当たることがあった。ある席で私たち夫婦がほとんど喧嘩をしないという話をした時に、「どうすればそうなるんですか」と質問があった。私は言葉に窮したが、お前はさらりと言ってのけた。「(喧嘩を)したいけれど、相手にしてくれないんです」。それが実態だったようだ。
  私は、人間の絆の中で最も不思議な宿縁は、夫婦の間柄と考えている。血縁でも地縁でもない。巡り会わなければ、生涯他人なはずの男女。それが生涯をかけて生きていく。まるで神の配慮と信じたくなるようなその神秘性の本質は、一体何であろう。
  お前も知っている私の親友で、今は故人となった学校長が、よく私たち夫婦のことをこう評価していたらしい。「あの夫婦は不思議な間柄だ。平凡に暮らしているように見えるが、よく接してみると、幾年経っても恋人同士だ。夫婦で恋愛生活をしている」。彼の感性が的を得ていたかどうか。しかしそれを否定しようという気は、今でも私に起こらない。
  私とお前には15の年輪の差がある。しかし、そんなことではない。私の仕事柄から、こう聞く人も幾人かあった。「奥さんは女優ですか」。私は答えている。「違います。普通の女教師です」。それは私の誇りの言葉でもあった。
  お前は演劇に生涯をかけた私の人生に、本当によくついてきてくれた。いや、一体となって生きてきてくれた。終戦後、すべてが荒廃している社会の中で、私の無い物づくしの舞台創造にお前が青春を傾けている姿は、今も瞼に焼き付いている。嫁入衣装を解いて舞台衣装に、乏しい配給米を楽屋の食糧に。それは私とお前の64年にわたる愛の一体感、生命の一体感であり、劇団「麦の会」の歴史でもある。ありがとう。
  来世はどんなところか判らない。しかし来世も伴侶を選ぶとしたら、やはり私はお前を選ぶに違いない。

(スプーン2009年2月号に掲載)
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