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第6回ハバナビエンナーレの
インスタレーション風景
(1997年)
1957年、酒田市生まれ。酒田東高校卒業後、東京藝術大学彫刻科入学。86年、同大学写真センター助手就任。99年、同大学先端芸術表現科助(准)教授就任。同年、酒田市美術館にて「光―呼吸」展開催。鏡などで光を写し込む写真作品から、近年は写真装置(カメラオブスクラ)を使った作品へと表現形式が発展。コミュニケーションをテーマとした展覧会やプロジェクト活動など、世界各地で幅広い活動を展開中。埼玉県さいたま市在住。
 

 東京を拠点に活動している私は、近頃さまざまな地域でその場所を再確認するための装置「カメラオブスクラ」を制作している。このカメラは、針穴写真の原理で知られるように、遮光された箱があり、その内部に光が穿たれれば、光が自動的に映像を形作るというものである。シンプルにして奥深いこの原理は、紀元前のころから人々に知られていた。この原理を理屈で知るのではなく、まさに百聞は一見にしかずの論理で、多くの人に体験してもらいたいと、全国各地で普及活動を行っているのだ。カメラに写る景色は、いつもの町並みでありながら、逆さまでどこか新鮮な光の世界である。奥行きが失われ、平面になることによって日常性から離れ、遥かに遠くの景色に見える。

 
  1. ワークショップ前日に酒田入りした東京藝術大学の学生たち。制作に使うダンボールの調達を、「ふとんの池田」の協力で行なった。
2. その日の夜、公益大の学生と合流して、翌日の作戦会議。各班の制作テーマを発表した。
3.4.5. いざ当日。市民参加者も仲間に加わって、ひたすら制作!
 

  今回、酒田のワークショップでは、ダンボールと虫眼鏡といったどこにでもある材料を使い、独創的な身体サイズのカメラを作る企画を立てた。参加者は、私が東京から連れてきた東京藝術大学の学生と、地元東北公益文科大学の学生たち、そして一般参加者である。その混成グループによってアイデアを煮詰めることになった。当日は作業を中心に行い、それぞれアイデア満載のカメラが完成した。写真を撮るためにではなく、ただただそこに映る景色を眺めるためのカメラである。共同制作の面白さとしては、アイデアや意見のぶつかり合いと統合など、個人で作るのとはまた違った複雑な制作過程にある。また完成した時の喜びは、〈個人で行う制作の喜び〉×〈参加者分の乗数〉になるのだ。

   
2班 「おむすび」
巨大三角形多孔カメラ
4班 「Dream Dome 黒ひげ光一発」
黒ひげ危機一発ゲームを模したドーム型カメラ
5班 「マイ・ビジョン」。
別名「お尻合いカメラ」。

   
作品ができてきたら外に移動。中合清水屋店わきの通りに集合して、完成したカメラを体験した。通りすがりの人も当然カメラの中へ。左の写真は、カメラから見たまちの風景。上下逆に見える。
1班 「走るアパート」。
自走式多孔カメラ
3班 「のっぽさん後ろの正面だあれ」。
覗く人の後ろ側を見る潜望鏡形カメラ


  今回出たアイデアは、1班は自走式多孔カメラ「走るアパート」。2班は2メーターを超える巨大三角形多孔カメラ「おむすび」。3班は覗く人の後ろ側を見る潜望鏡形カメラ「のっぽさん後ろの正面だあれ」。4班はドーム型カメラで黒ひげ危機一発ゲームを模した「Dream Dome 黒ひげ光一発」。5班はチームの4人が一緒にカメラをかぶり、それぞれ東西南北別の方向を見ながら動くという「マイ・ビジョン」。その姿から「お尻合いカメラ」とも呼ばれた。これらのカメラは、完成後、中町の中心に出て通行者も巻き込みながら、プレゼンテーション、体験を行った。いずれも新鮮なアイデアで、誰よりも先ずは私自身が魅せられたといえよう。

  このようにダンボールでできた謎のカメラたちは、東京から来た学生と酒田の学生たち、そして地元の市民とが渾然一体となり、見事に町を挑発し、道行く人々を巻き込み、コミュニケーションを発生させながら、光の神秘を体験することとなった。とはいえ日常のただ中で創作活動を行う我々の集団は、明らかに異質で浮いていた。しかし一度そのカメラを覗いた人たちは、我々の行為に合点がいき、興味を持ったことだろう。他者の視線に晒されることもワークショップの重要な意味合いなのだ。

  例えば何事もなく過ぎて行く日常に、いつもとは違う何かが入ってくると、気分が高揚し活性化する。活性化とは、とりもなおさず異物質と異物質が出会った時に起こる反応のことである。酒田は昔から港町として日本中の異文化、多くのエトランゼを受容してきた。現在も、アートや非日常の何かに出会うことによって、ざわざわと活性化するのは間違いない。多くの他者やさまざまな価値観が、入れ替わり立ち替わり町に訪れ、刺激しあったら楽しいだろうな、と酒田を見て思った。同時に今回は、私自身の酒田の記憶も、新たに上書きされる貴重な体験となった。

佐藤時啓=文
text by Satoh Tokihiro


参加者の声
会話と協力を生ませるWS。地元住民の芋煮へのこだわりも実感した。
田中一平(東京藝術大学4年)
 ワークショップでは、考え込む暇はなく「何か出さなければならない状況」に立たされる。その状況は、偶然その場に居合わせた他人同士の私たちに「会話」を発生させ、「協力」を生ませた。飾ることができない自分たちのアイディアを出し、各々の手技が色濃く作業に反映され、完成した作品には等身大の自分たちの姿が映っているように感じた。
 今回の共同制作は、もうひとつあった。それは山形名物の「芋煮」だ。前日に、外部参加者の私たちに酒田の方たちが作り方をレクチャーした。印象的だったのは「芋煮」という料理に大勢の人が地域のこだわりを強く持っていたことだ。「芋煮」が酒田の人たちを繋いでいると感じた。私のまちの人たちを繋げるものって何だろう?と思いながらいただいた。

(スプーン2008年4月号に掲載)

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