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  2003年に東北公益文科大学の授業「山形の文化a」に招かれて以来、度々酒田を訪れてきたが、今回のワークショップで、私は市街地を通り抜けて海に向かった。酒田を「海辺のまち」ととらえることにしたのである。1987年から私は海辺の漂着物をモチーフに切手作品をつくっている。ある日ある渚で、貝殻など小さなものと出合ったことを記念する私製の切手だ。旧温海町に生れ育った私は幼少時、暗くなるまで砂浜で遊んだ。波打際では、若布や海鼠が子供でも拾える。沖行く船を眺めて過ごすのは、それだけで楽しい。子供にとって海はただの遊び場ではなく、食材や薪を手に入れ、想像力を育む場所でもあった。当時の体験が今でも私の創作活動に大きな影響を及ぼしている。

 今回私が提案したのは、海辺の漂着物を海産物とみなし、酒田の新しい土産品として売り出すプロジェクトである。漂着物は自然素材と人工物とに大きく分けられる。前者は貝殻や流木、木の実などで、後者はプラスチックや発砲スチロールの破片、壜や缶など、はっきり言って「ゴミ」である。
1950年、山形県温海町生まれ。鶴岡工業高等専門学校卒業。84年、郵便切手シリーズ開始。91年、植物の種を使った「Seed Project」シリーズ開始。国内外にて精力的に作品発表を続ける。現在、岡山県倉敷市の大原美術館にて「HIROSHIMA1990−2008」を開催中(〜5/11)。4/25からは同館の有隣荘でも個展を開催。⇒詳細はホームページで。 また今年11月には、山形美術館にて「太田三郎展(仮称)」開催。岡山県津山市在住。
ヒシをモチーフにした切手作品


1. 太田三郎さんの作品をDVDで鑑賞した後に、事前に太田さんが漂着物で作ったストラップなどのグッズ見本をみながら、漂着物を商品にするというワークショップ説明を受けた。
2.3. 酒田市浜中海岸に移動。各自、漂着物ならぬ「お宝」を探して四方八方に海岸を歩きまわった。


 


4. 浜中の海岸には、おびただしい流木に混じり、多様で国際的なゴミが辿りついていた。
5. 酒田市内に戻り、さかた夢の倶楽内「芳香亭」で、お宝探しの成果を発表。それをどう商品化するか、皆で話し合った。後日、太田さんと公益大生がグッズ見本を制作。12月の成果展に陳列した。
 





太田三郎作 「宮野浦の砂のペーパーウェイト
(プラスチックの破片や木の実入り)」
 
太田三郎作 「海洋表層水」
 
公益大生作 「アートボックス」
 

  手始めに参加者たちと向かったのは、酒田市の浜中海岸。まず目につくのはおびただしい流木だった。漁具の破片や壜類も多い。韓国や中国からのゴミも混在し、何とも国際的である。赤川から運ばれてきたものであろうか、珍しくヒシの実が目についた。私たちはグッズの材料になりそうな「ゴミ」を「お宝」と呼ぶことにした。レジ袋片手に集団で「お宝」を物色する様は、砂浜の掃除とは明らかに異なる。居合わせた釣り客の目に、どう映ったであろうか。

  その時に手に入れたお宝をもとに私たちは、12月に「さかた街なかキャンパス」で開催した「ワークショップ成果報告展」に並べるグッズ見本をいくつか作った。海辺に豊富な物といえば砂と海水である。私は以前から砂をアクリルケースに封入して、ペーパーウェイトを作っている。今回は砂にプラスチックの破片などを加えてみた。ケースには漂着物を採集した日付と場所が印字されているから、海洋汚染を記録するカプセルになるかもしれない。海水は栄養ドリンクの壜に詰めて、調査研究用に販売したい。この茶色の小壜もまた漂着物である。プラスチックの破片はストラップにして、海ではなく人間社会を漂流させよう。土産品を通じて海辺の現状を知らせ、漂着ゴミを減らすのが真の目的だ。東北公益文科大学の学生も、いわゆる「美大生」ではないが、健闘してくれた。

  今後は、現実的な商品化を目指し、売り出す商品を選び、適正な価格を設定し、商品としての体裁を整え、売場を選んで店頭ディスプレイを考えよう。場合によってはネット販売もあるかもしれない。
  今回の海産物を使ったワークショップで発見したのは、「グッズの材料は無尽蔵にあり、ただで手に入る」ということ。そしてそれとは逆に痛感したのが、プロジェクトを推進する「人材の不足」だった。立案者である私が遠くに住むことと、主力メンバーが学生であるのが弱点である。学生は卒業すれば酒田を去っていく。熱心に取り組む現地の社会人スタッフが欠かせない。グッズのデザインは、私が何とかできそうな気がするが、販売面に関しては自信がない。環境問題とアートに理解があり、流通にも強い若者にぜひ参加して欲しい。あたりまえのことだが、「まち」を「まち」にするのは建物ではない。人間がいてこそ「まち」なのである。

太田三郎=文
text by Ota Saburo


参加者の声
ステキな海からの贈り物に変身した漂着物をみて、脱帽!
荻野美沙子(一般参加者)
 拾ったタバコの吸殻が切手シートにデザインされた太田先生のアート作品に驚き、私たちはどんな発想ができるのかと不安になりながら海岸に向かいました。お盆明けの海岸にはお宝がいっぱい!? でも漂流物からなかなかイメージが湧かず、ひたすらシイの実やクルミ、貝殻、小ぶりの流木を拾いました。この中から商品になるものを作って、世界は海でつながっていることを知らしめるなんて…。
 しかし後日、太田先生の作品をみて脱帽。小さな容器に砂とプラスチックのかけらを入れたペーパーウエイト、流れ着いた小瓶に海洋表層水とラベルをつけたら、それはそれは素敵な海からの贈り物。ものの価値をみごとに変えてしまうアートの力を実感しました。

(スプーン2008年4月号に掲載)

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