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黒森歌舞伎に魅せられて二十年。
ひたすら追いかけ、撮ってきました。


酒田市黒森地区の黒森歌舞伎は、江戸時代中期より伝わる地区内にある日枝神社への奉納行事。一説には、村の若者たちに悪い遊びが流行った時に、長老たちが勧善懲悪の思想を教えるために芝居をさせたのが始まりと言われている。毎年2/15・17、10:00より黒森日枝神社演舞場にて。


  白塗りの顔に隈取りした少年歌舞伎の子どもたち、雪が降るなかで舞台を見つめる観客たち、裏方で芝居見物用のお弁当をつくる女性たち。松本鶴子さんは平成18年、「黒森歌舞伎」をテーマにした組写真で、第12回酒田市土門拳文化賞奨励賞を受賞しました。松本さんが、黒森歌舞伎の役者や裏方で働く人の姿を追いかけて、今年で20年。撮りためてきた写真は数1000枚にも及びます。

  酒田市日吉町で、「麻檀夢 華苔(まだむかだい)」を経営する松本鶴子さんが写真を始めたのは、今から20数年前のことでした。当時、松本さんは、来店するお客さまのためにと年中無休で働く日々。その無理がたたり、ある日、九死に一生の交通事故に会います。「入院を余儀なくされた時に、見舞いに来てくれた方が『ウインダム・ヒル』という写真集をくれたんです。それをパラパラ見ているうちにすごく感動して。そういえば最近、花を見る余裕もなくなっていたなと、その時初めて気がついたんです」。

  退院後、仕事の合間を縫って、身近に咲く花を1人撮りはじめた松本さんは、写真を通してアマチュアカメラマン仲間と出会い、「秋山庄太郎さんと花の会・山形支部」に入会します。そこで知り合ったプロの写真家に指導を仰いだり、写真仲間と交流を深めるなど、松本さんは意欲的に写真技術を学びました。被写体も花だけでなく、風景や人物へと広がります。黒森歌舞伎との出会いも、写真仲間から上演撮影に誘われたのがきっかけでした。「黒森歌舞伎のことをよく知らずについて行ったんです。そしたら雪が降って、とにかく寒いし、撮るポイントもつかめない。結局、その年に撮れたのは1枚だけでした」。その後、2月になると黒森歌舞伎の撮影に行くのが恒例となった松本さんは、10年ほど通った時に、ふと楽屋裏に興味を持って撮りはじめます。「楽屋裏のいろいろな表情を撮らせてもらっているうちに、はまりましたね。役者さんたちの化粧や着付けの姿など、すてきな場面がたくさんあるんです。黒森歌舞伎を自分のテーマにしようと思ったのは、その時からです」。

  『松本鶴子写真集 黒森歌舞伎の記録』(非売品)印刷/小松写真印刷 発刊/平成18年 82P
黒森の歌舞伎上演など、100点近い写真を掲載。
   
  黒森歌舞伎は、270年以上の歴史を持つ酒田市黒森地区の奉納行事です。本番が行われるのは、2月15日と17日ですが、その日に向けた伝統行事は、3月上旬の太夫振舞からはじまり、その後も年間を通して何度も行われます。松本さんは、それらの年中行事をすべておいかけ、伝統を守り続ける地域の人々の姿を撮影してきました。「通いはじめて大分経ってからのことです。見物客用のお弁当づくりをしている女性の方から『おめはんもご飯食べでいがねが』と初めて声をかけてもらったんです。その時に、黒森の人たちからようやく自分を受け入れてもらえた気がして、嬉しかったですね」。

  土門拳文化賞奨励賞受賞の前年、松本さんはお店の開店30周年を記念して、『松本鶴子写真集 黒森歌舞伎の記録』を出版しました。松本さんが、初めて黒森歌舞伎を撮った時のモノクロ写真が巻頭を飾るその写真集には、黒森歌舞伎の年中行事や舞台裏の姿が、順を追って構成されています。「何百年もの歴史ある黒森歌舞伎を、自分の写真集として出版することにおそれ多い気持ちがあったので、座長さんや副座長さんと相談しながら、1枚1枚写真を選びました。だからこの写真集は、私にとってすごく思い出深いものです」。

  祭りは人の心をゆるませて、いい表情にさせるから大好きという松本さんは、近年、庄内各地の祭りも追いかけています。「撮って極楽、みて地獄。だから続けてこられたのかな」と笑顔で話す松本さんは、小柄な身体で、時にたくましく、時に慎ましく、これからもカメラ片手に各地を走り回るに違いありません。


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松本鶴子さん
「花の会」会員・二科会写真部山形支部員・
山形県写真連盟会員


酒田市本楯生まれ。酒田市日吉町在住。「麻檀夢 華苔」経営。酒田市土門拳文化賞奨励賞受賞(平成18年)。二科展写真部入選(平成13・17年)。東北二科展入選(全12回うち山形テレビ賞1回)。2005全日本読売写真クラブ展優秀賞。愛用のカメラはミノルタのα707と807。
 

寄せ太鼓の音に誘われて 雪虫が舞い降りる神のような虫が舞い降りる (略)
伝統を支える地域の方々や役者さんとも馴染みになれて私のからだにも雪虫が舞い降りる
――松本鶴子写真集『黒森歌舞伎の記録』より

長谷川結=取材・文
text by Hasegawa Yu


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