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東海林晴哉さん
フリーカメラマン

1952年(昭和27)、遊佐町上戸の農家に生まれる。測量技師となり、共同経営の測量会社を設立。故・石川義弥氏に師事し、写真を学ぶ。37歳の時にプロのカメラマンに転身。現在、庄内の在来野菜の写真家として注目を集めている。 |
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⇒「根っこが見たい」と思ったら、掘って撮るのが東海林さん。湯田川の孟宗筍は、堀り始めてからカメラを設置するまでに約2時間もかかったそうです。左下は、外内島(とのじま)キュウリを栽培なさっている上野武さん。 |
浅賀閑子・佐藤晶子=取材・文
text by Asaka Shizuko, Sato Akiko |
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「虫食いの葉っぱ、
いいなあ」って思うのに、
「こんな私でいいの」って
キャベツは聞くんだ。
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復活ピアノの演奏で知られるジャズピアニストの河野康弘さんが、今年4月、CD『ダンシング・ベジタブル』をリリース。そのジャケットを、東海林さんの野菜の写真が飾ります。お二人はともにジャズを愛し、環境保全への関心が高いことから友情が芽生えました。元気なジャズと元気な在来野菜とのコラボが楽しみです。 |
東海林晴哉さんは、庄内の在来野菜を、10数年前から独自の視点で撮影し続けてきたカメラマンです。在来作物研究会の機関紙「SEED」の表紙などで、彼の野菜の写真をご覧になった方も多いことでしょう。
遊佐町の農家に生まれた東海林さんは、高校卒業後、測量技師となり、仲間と測量会社を設立しました。しかし、高校時代から写真が好きで、37歳の時、ついにプロのカメラマンになることを決意。以後、フリーランスとして活躍を続けています。
庄内の野菜をライフワークとして撮影するようになったのは、写真家、石川義弥さんのアドバイスがきっかけでした。石川さんは、報道カメラマンとして活躍され、奥様の実家のある酒田に転居後、写真やビデオ撮影の仕事をするかたわら、後進の指導にあたっていました。石川さんは、「趣味でやってきた写真を、プロとして仕事にしようと思うなら、何かテーマを持って、それを自分のライフワークにした方がいい」と提言してくれたのです。ライフワークと言われても、すぐにはピンときませんでしたが、石川さんが撮影した野菜の花の写真を見て、「野菜って花が咲くなよの」とひらめき、さっそく植物図鑑を片手に、1年かけて100種類ほどの野菜の花を撮影しました。
「ところがそのうち、撮影した後の花や野菜はどうなっていくのか、気になるようになりました。土の中で野菜はどうなっているのか、とか、野菜には不思議がいっぱいあって、疑問が浮かんでくると、どうしても答えが知りたくなる。写真に残したくなる。おれが見たい、だから撮るんだ、ということなんです」。
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在来作物研究会発行の機関紙「SEED(シード)」には、東海林晴哉さんの在来野菜の写真が、表紙を含めて、多数掲載されています。「掘って撮った孟宗筍」も見えますね。 |
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疑問があれば、図書館で調べたり、市役所で専門家を教えてもらったり。10年前に、野菜の花のカレンダーを作った時、監修者として、大野博教授を紹介してもらい、そこで初めて「在来野菜」というカテゴリーを知りました。庄内の在来作物研究の先駆として名高い、青葉高氏の『北国の野菜風土誌』は、「読みたかったけど、手に入らなかったので、図書館に通って、ノートに書き写しました。今でもおれのバイブルです」。
ダイコン1つをとっても、農家では、花の咲く前に収穫するため、畑で花を見ることはできません。ダイコンの花を撮ろうと思ったら、農家の方にお願いして、種取り用に残してあるダイコンを撮らせてもらわなくてはなりません。孟宗筍が土中でどのように根を張っているのか、その姿を見たいと思ったら、やはり農家の方の了解を得てから、掘り起こす作業を始めます。庄内の農家の方は皆さん、親切なのでしょう、「今まで断られたことは一度もないなあ」。「野菜の目線で撮りたいから、ローアングルになる。すると、野菜たちは表情豊かに応え、言葉さえはっきりと聞こえてくる」と東海林さんは言います。地面から見上げたネギのつぼみは、ガウディの建築のようにそびえ立ち、曲がったキュウリは、「素直に曲がりました」と胸を張る。「虫食いの葉っぱ、いいなあ」と言いながら近づいたのに、「こんな私でいいですか?」とけなげにも尋ねるキャベツ。東海林さんの写真には、野菜たちの素顔の世界があります。
現在興味を持っている野菜は、大滝ニンジン。鶴岡の松柏種苗で指導していらした、今年97歳の大滝武さんが育てるニンジンは、香り高い逸品。ご縁があって撮影できることになったので、張り切っています。「野菜の花から始まって、野菜そのものの生き方や、その生育環境へと疑問が湧くにつれて、写真のテーマも関心も次々に広がってきたけれど、今は、庄内の農家の人たちにも関心が増しています。その姿もぜひ撮っていきたい」。庄内平野の農業と野菜を愛する活躍ぶりを、野菜たちも喜んで応援していることでしょう。
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