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 Home > 大人仕様 4. 寿司編
 



味と食感の方程式
アワビとイカは独特の歯ごたえがあり、噛むほどにわき出す旨みが、シャリの酸味と絶妙に調和する。イカは切り目を入れてやわらかく。
視覚的な味わい
見た目の良さも職人技の一つ。甘エビ(奥)はとろけるような食感で、ガサエビはぷりぷりと食べ応えがあり、どちらも甘みに優れている。
酢締めの極意
光り物の代表格がコハダ(手前)とアジ。職人は魚の脂のノリに合わせて酢や塩の塩梅をみる。魚の持ち味と鮮度を高める江戸前の技。
深い、味つけの妙
コクのあるフグ(左)は、紅葉おろしとネギのさっぱりとした辛味で味をひきしめ、ノドグロは炙って、さらに旨みを増長させている。


「あがり」は、締めのお茶
を指す符丁。
和製フィンガーボール?
お寿司屋さんの
湯呑みが大きいわけは。

湯呑みが大きければ、店員が何度も注ぎ足さずに済むという利点がありますが、じつは寿司屋が屋台だった頃、客が食後に寿司飯でベタついた指先を洗ったという説も。しかもその指先を暖簾で拭いていたとか。そのため暖簾が汚れた店は繁盛店、とみなされたようです。
 
カウンターに座り
自然体で味わってみたい
粋な大人の旨し時間

寿司編| 指南役 寿司・割烹 鈴政
寿司職人は、海が荒れても旨い寿司を握ることが使命なんです。
昭和30年創業。大将の英さんはこの店の2代目。酒田市日吉町1-6-18
【営】平日11時半〜13時半・17時〜21時半(日曜・祭日は17時〜20時) 0234(22)2872

 カウンターで江戸前寿司を食べるというのは、粋な大人の楽しみであり、大人への憧れの象徴でもあります。それは寿司の美味しさや美しさに加えて、「時価」という曖昧な価格、「むらさき」や「あがり」に代表される符丁と呼ばれる独特の用語が、寿司屋という存在を何か特別なものにしているのかもしれません。そこで今回は、日本人なら知っておきたい、本物の職人が握る寿司の粋な楽しみ方を、酒田の老舗「鈴政」の暖簾をくぐって、大将の佐藤英俊さんに指南していただきました。

心にゆとりを持って
独自のスタイルで楽しむ寿司の旨さ。

 寿司屋を楽しむために、はじめにクリアしなければならないのが「お愛想」、つまりお勘定です。というのも、ご存じのように寿司屋には時価もののネタがあり、価格を書いていないお店が多いためです。終始そればかり気にしながら食べたのでは、せっかくのお寿司の味も半減してしまいます。そこで「まずその店の特上の握りを一人前味わった上で、お好みのものを追加するという形がおすすめです。それで店のレベルが分かりますし、口に合わなければ一人前分だけ食べて帰ってもいいんです。あるいは、今日の予算はこのくらい、とあらかじめ伝えておく。これは何も恥ずかしいことではありません」。また、「常連」とは3回以上通った客を指すそうですが、それならまずランチで顔を覚えてもらい、その場で夕食の予約を入れれば、かなりの低予算で次からは常連になれる、というわけです。
 とはいえ、本当に驚くほど高価なネタがあるのもまた事実。「コハダの若魚でシンコ(新子)というのは、魚体が小さいために下処理に手間がかかり、仕入れ値も数万円と高価です。味はコハダの方が上ですが、あっさりとしていて独特の若い香りがあり、旬を心待ちにするほど好きな方がいらっしゃる。頼まれてこれを仕入れる時などは、儲けは度外視しても、お客様に相場をご承知いただくようにご説明しています」。


カウンターは職人と客が
育てあい高めあう いわば、さらしの場。


 佐藤さんが「さらしの場」と呼ぶカウンター越しでは、お互いの人となりまでが見えてしまうもの。
だから知ったかぶりなんかは厳禁。もちろん職人も嘘はつけません。「知識だけでなく、味も嘘はつけません。うちのウニはウニ嫌いの方にも旨いといっていただいていますが、そうすると今度は、是が非でも旨いウニを仕入れなければいけなくなる。そのために全国各地に足を運んでネタを探します」。


玉子 玉子焼きは握りにせず、つまみとして。 帆立 貝類の中でも甘みは別格。酢と好相性。 中トロ トロと赤身の中間。舌の上でとける逸品。
ヅケマグロ マグロの旨みをヅケ(漬け)で閉じ込める。 ウニ 磯味が豊か。醤油で食べても塩でも◎。 平目 塩で食べると淡白な身の甘みが際立つ。
トロ鉄火 特上一人前の締めには、贅沢な巻物を。 穴子 「煮る」仕事。臭みもなく、まさに絶品。 甘エビ 濃厚な甘みが酢飯と醤油の間で引き立つ。


伝統と革新を繰り返す日本のファストフード
寿司屋の驚くべきフレキシビリティ。


 寿司は、今や日本が誇る世界のファストフード。そのはじまりはなんと「屋台」でした。「当時、醤油などは共用だったために、シャリに醤油を付けると米粒がほどけて落ちるのでネタの方に付けていた。まったく合理的なマナーだったわけです」。現在のように、食べる順序や細かな流儀が語られるようになったのは近年のメディア情報が発達したため。「ただし、寿司は職人の手を離れた瞬間から刻一刻と鮮度が落ちていくので、シャリに人肌の温かさが残っているうちに味わってほしいですね。あとはその方のその時々の体調や気分で、食べたいものを気取らず食べていただくのが一番です」。寿司屋が回転寿司になり、スシ・バーになっても、「寿司を口にする人が増えることは良いこと、ありがたいことだと思います」と、じつにフレキシブル。寿司という食の奥深さ、懐の深さを感じます。



この年季の入った焼印が
自家製の証。
 

寿司屋の玉子焼きって
なんだか格別で特別。
店の味の品定めにも。

「玉=ぎょく」ともいわれ、寿司屋のお品書きの中でも確固たる地位を築く「玉子焼き」。寿司屋ではそれぞれ、自店で焼いたり専門店から仕入れたりと、店ごとのこだわりがあるようです。今はお取り寄せのできるお店もあり、食べる側にもこだわりが感じられます。


手から手へというシンプルな伝達。
寿司こそ食の王道なり。


 ではなぜ寿司は手で食べるのか。それは「おにぎりと同じで、人の手で握ったものだからやっぱり手で食べるのが美味しいんですよね。お箸で食べてももちろん構いませんが、できれば一度、手で食べてみて欲しいです」。寿司のひと握りは、手間ひまかけた魚の仕込み、厳選された米、秘伝の寿司酢など、こだわり抜かれた技と歴史の結晶。出されたら食べる、そのリズム。寿司が乾いてしまうほどおしゃべりや商談に熱中してしまうのは最も野暮で無作法なことといえます。職人が魂を込めた繊細な仕事に対して、ただ純粋に食や対話を楽しむことこそ、粋で洒落た味わい方といえるのではないでしょうか。

(スプーン2008年7月号に掲載)

〈参考文献〉
早川光・著『日本一江戸前鮨がわかる本』(ぴあ)、『自遊人』(2008年7月号)、嵐山光三郎・著『寿司問答 江戸前の真髄』(ちくま文庫)

浅賀閑子、高橋江里子=取材・文
text by Asaka Shizuko, Takahashi Eriko
和島諭=写真
photograph by Wajima Satoru
日向香=デザイン
design by Hinata Kaori
 

“肩肘張らず、自由に”とは言っても、やっぱり格好よくふるまいたい。寿司を食す、一挙手一投足。
1
お箸でいただくときはタネとシャリをはさんで、サッと口に運びましょう。

食べる寿司を1貫、横に倒します。この時、タネが自分から見て左手に来ていれば◎。そのままの状態で、タネとシャリを箸でつまみ、醤油を入れた手塩皿に運びます。ここで注意したいのは、シャリはふんわりと握られているので、くれぐれも崩さないようにすること。

2
ネタにつける?シャリにつける?
基本はお好みでいいのですが…。

醤油はタネの3分の1ぐらいにつけていただくと、素材のおいしさが活きるとか。量はお好みでもいいですが、シャリにはつけない方が◎。「でもシャリにつけるのが好き」という方は、シャリが崩れて、小皿にご飯粒が残らないよう気をつけて。

3
手から手へ伝わるシャリの感触を味わうのもツウ(っぽい)楽しみ。

カウンター席なら、手で食べるのがベスト。目の前に出されたら自然なふるまいで手に取り、箸の時と同じように、タネに醤油をつけ、タネが舌に乗るようにして口の中へ。その間、約数秒。シャリのほどよい温もりとネタの鮮度が調和する、おいしいところを召し上がれ。

4
握りをマスターしたらお次は軍艦巻きにトライ。あとは実践あるのみ!

軍艦巻きに醤油をつける時は、まずはガリに醤油をつけ、それをタネに移しつけていただきます。この時、醤油の入った小皿は手で持って、まわりにこぼれないようにします。使い終わったガリは、手皿の隅に寄せて置いておきましょう。



◆バックナンバーもチェック!
1.和菓子編 | 御菓子司 小松屋(2008年4月号)
山水花鳥風月を映し、日本人の美意識を形にした 五感で味わう芸術品。
2.パン編 | モンパン(2008年5月号)
食卓にあるだけで心豊かに、楽しみふくらむ、パンのある暮らし。

3.花編 | Rosa(2008年6月号)
もの言わぬ花々が、その色彩や造形に託した
癒しのメッセージ。
4.寿司編 | 寿司・割烹 鈴政(2008年7月号)
カウンターに座り、自然体で味わってみたい
粋な大人の旨し時間。

5.フレッシュジュース編 |
フルーツデリにしむら
(2008年8月号)
ビタミンカラーを心と身体に取り入れて
彩る、ヘルシーライフ。
6.カクテル編 | BAR ChiC(2008年9月号)
シックに、カジュアルに、自分の特別な空間で鮮やかなカクテルに酔う。

7.紅茶編 | プティポアン(2008年10月号)
ゆっくり過ごしたい時間。お気に入りの紅茶をいれ、体と心で豊かに味わう。

11.ワイン編 | ワインバー&ダイニング Ravi(2009年2月号)
料理、会話、場の空気。素敵なテーブルを演出する気軽で楽しいワイン術。



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