伝統と革新を繰り返す日本のファストフード
寿司屋の驚くべきフレキシビリティ。

寿司は、今や日本が誇る世界のファストフード。そのはじまりはなんと「屋台」でした。「当時、醤油などは共用だったために、シャリに醤油を付けると米粒がほどけて落ちるのでネタの方に付けていた。まったく合理的なマナーだったわけです」。現在のように、食べる順序や細かな流儀が語られるようになったのは近年のメディア情報が発達したため。「ただし、寿司は職人の手を離れた瞬間から刻一刻と鮮度が落ちていくので、シャリに人肌の温かさが残っているうちに味わってほしいですね。あとはその方のその時々の体調や気分で、食べたいものを気取らず食べていただくのが一番です」。寿司屋が回転寿司になり、スシ・バーになっても、「寿司を口にする人が増えることは良いこと、ありがたいことだと思います」と、じつにフレキシブル。寿司という食の奥深さ、懐の深さを感じます。

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この年季の入った焼印が
自家製の証。 |
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寿司屋の玉子焼きって
なんだか格別で特別。
店の味の品定めにも。
「玉=ぎょく」ともいわれ、寿司屋のお品書きの中でも確固たる地位を築く「玉子焼き」。寿司屋ではそれぞれ、自店で焼いたり専門店から仕入れたりと、店ごとのこだわりがあるようです。今はお取り寄せのできるお店もあり、食べる側にもこだわりが感じられます。 |
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手から手へというシンプルな伝達。
寿司こそ食の王道なり。

ではなぜ寿司は手で食べるのか。それは「おにぎりと同じで、人の手で握ったものだからやっぱり手で食べるのが美味しいんですよね。お箸で食べてももちろん構いませんが、できれば一度、手で食べてみて欲しいです」。寿司のひと握りは、手間ひまかけた魚の仕込み、厳選された米、秘伝の寿司酢など、こだわり抜かれた技と歴史の結晶。出されたら食べる、そのリズム。寿司が乾いてしまうほどおしゃべりや商談に熱中してしまうのは最も野暮で無作法なことといえます。職人が魂を込めた繊細な仕事に対して、ただ純粋に食や対話を楽しむことこそ、粋で洒落た味わい方といえるのではないでしょうか。
(スプーン2008年7月号に掲載)
〈参考文献〉
早川光・著『日本一江戸前鮨がわかる本』(ぴあ)、『自遊人』(2008年7月号)、嵐山光三郎・著『寿司問答 江戸前の真髄』(ちくま文庫)
浅賀閑子、高橋江里子=取材・文
text by Asaka Shizuko, Takahashi Eriko
和島諭=写真
photograph by Wajima Satoru
日向香=デザイン
design by Hinata Kaori |
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お箸でいただくときはタネとシャリをはさんで、サッと口に運びましょう。 |
 
食べる寿司を1貫、横に倒します。この時、タネが自分から見て左手に来ていれば◎。そのままの状態で、タネとシャリを箸でつまみ、醤油を入れた手塩皿に運びます。ここで注意したいのは、シャリはふんわりと握られているので、くれぐれも崩さないようにすること。 |

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ネタにつける?シャリにつける?
基本はお好みでいいのですが…。 |

醤油はタネの3分の1ぐらいにつけていただくと、素材のおいしさが活きるとか。量はお好みでもいいですが、シャリにはつけない方が◎。「でもシャリにつけるのが好き」という方は、シャリが崩れて、小皿にご飯粒が残らないよう気をつけて。 |

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手から手へ伝わるシャリの感触を味わうのもツウ(っぽい)楽しみ。 |

カウンター席なら、手で食べるのがベスト。目の前に出されたら自然なふるまいで手に取り、箸の時と同じように、タネに醤油をつけ、タネが舌に乗るようにして口の中へ。その間、約数秒。シャリのほどよい温もりとネタの鮮度が調和する、おいしいところを召し上がれ。 |

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握りをマスターしたらお次は軍艦巻きにトライ。あとは実践あるのみ! |

軍艦巻きに醤油をつける時は、まずはガリに醤油をつけ、それをタネに移しつけていただきます。この時、醤油の入った小皿は手で持って、まわりにこぼれないようにします。使い終わったガリは、手皿の隅に寄せて置いておきましょう。 |
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