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 Home > 大人仕様 1. 和菓子編
 

日常にあるモノの“モノ語り”と、それにまつわるちょっとした知識を学んで、暮らしをより味わい深く楽しむ新シリーズ。
第1回は「和菓子」編として、酒田市の老舗・小松屋の代表取締役・小松尚さんにお話をうかがいました。




山もゆる秋、実りの秋。練り物ならではの造形と色彩が映える季節。(手前)柿 …柿色に若い青をぼかし、ツヤ天をのせて鮮やかに。(奥)百々代草…和菓子の意匠には、画家・尾形光琳の作風による影響が大きい。こちらも琳派の流れを汲んだデザインと見て取れる。 うららかな春を告げる桜花。(手前)花便り…じっくり練り上げた小倉餡を練りきりで包み、「三味胴(しゃみどう)」と呼ばれる木型で抜いたもの。陽を受けてきらめく川の水面に、桜の花弁が舞い散る。(奥)ひとひら…淡くぼかした花弁のコントラストが絶妙。
冬景を表す菓子は、やはり六花にまつわるものが多い。(手前)藪柑子…雪中で見つけたヤブコウジ。緑と白の二層の「こなし」を艶やかな葉に見立て、中に餡を包んで、真っ赤な実をのせた。(奥)侘び助…雪椿、細雪など椿には趣のある名が多い。茶の湯の花の主役。 涼やかさを感じる意匠は暑気払いに。(手前)清流…錦玉の中で悠々と泳ぐ若鮎が二尾。(中)水牡丹…桃色の練りきりで餡を包み、まわりに錦玉をあしらって、滴るような清涼感をアピール。(奥)初夏の訪れ…爽やかなせせらぎに、萌える青もみじの葉が一枚。

意匠や菓銘、製法を綴った見本帳。

見本帳の登場により、
和菓子は一気に名を広め
贈答品の地位も確立。

小松屋所蔵は明治期のものが最古。北前文化の発達により、見本帳の最新刊情報もタイムリーに届けられた。菓子屋ではここに記された技法などをもとに職人さんに木型を作らせたり、カタログとして得意先に持参し、「御用聞き商売」を行ったという。
 
山水花鳥風月を映し
日本人の美意識を形にした
五感で味わう芸術品。

和菓子編 | 指南役 御菓子司 小松屋

天保三年創業。業種は和洋菓子全般。生菓子は季節ごとの商品が店頭に並ぶ。また、茶席菓子はオーダーメイドが可能。お菓子の頒布会「黒文字会」も好評実施中。
〔本店〕
酒田市日吉町1-2-1
0234(22)5151

お菓子はくだものだった?
「菓子」という文字から
そのルーツをたどってみる。


 まず、お菓子のルーツを語源からひも解くと、日本の懐石料理では「水菓子」といって季節のフルーツが出されます。これはかつて「菓子」が果物を指し、果物は「木(く)の物」いわゆる木の実であったことに由来しています。昔の人々が空腹を満たすため、木の実を粉にして、練ったり炙ったりして食べていたものが、お菓子の原型というわけです。そうした食生活の一部から、お菓子が分かれていった理由には、遣唐使によってもたらされた対岸の文化が影響しています。穀物や油を使った「唐菓子」などの伝来とともに、お菓子は神仏に捧げる供物としての役割を担うようになりました。

  鎌倉時代になると、禅宗とともにお茶でおもてなしをする風習が広まり、それと同時に「点心」が伝わって「お茶とお菓子」というスタイルが成立しました。「饅頭の具には本来、肉が使われていましたが、日本では僧侶が肉食を禁じられていたため、肉のかわりに小豆を甘く煮た“餡”を作り、穀物で作った生地に包んで食べていました」。その後、南蛮貿易により「カステラ」や「金平糖」などが渡来する一方で茶道が確立、その隆盛とともに菓子文化も発展し、季節感と芸術的なセンスを施した意匠と、個々に「菓銘」が付いた日本の和菓子が完成したのです。

酒田湊は菓子の交流拠点。
商人の知恵と町人の風情が食文化の繁栄をもたらした。


「和菓子を語る時は、必ずその地域の歴史や文化が映し出されます。酒田は、北前文化と最上川舟運の発展によって栄華を極めました。それは、酒田湊が単なる交易の中継地としてだけでなく、物資の加工や保存の知恵に長け、倉庫としての役割を担っていたことが大きいといえます。そのために多くの船が利用し、新しい情報が入ってきたんです」。こうした背景から、酒田では「食」を扱った商売が可能となりました。また、当時は、今のように物流が十分発達しておらず、材料に地元の食材を使うこともありました。「とくに砂糖は希少で、江戸時代に普及したため、甘味料には、甘蔓煎や干し柿の表面に出る白い粉を使っていたようです」。そうした自然の産物を利用するにも、生産者が生業となる基盤が酒田にはあったといえます。





日本人の美徳を以て、心象風景を描く
人の一年一生と密接に関わる奥深き逸品。


 こうした歴史を持つ和菓子は、「五感で味わう芸術」といわれます。例えば、美しい姿形や色彩を【視て】、日本の歴史風情を綴った菓銘を【聴き】情景を思い浮かべながら、茶道や香道の影響を受けた繊細な匂いを【嗅ぎ】、舌触り、歯触り、手触り、喉越しを楽しみ、素材の風味を【味わう】といったように、日本人の繊細さをもってすれば、和菓子はじつに豊かに楽しむことができるのです。

 では今、私たちの暮らしの中で、和菓子はどんな存在なのでしょう。「今はあらゆる情報が手に入るので、じっくり自然を観察したり、味を吟味したりと、『自分たちで感じる』ということが少なくなったように思います。和菓子を通してその感性を見つめ直すきっかけになればと思いますし、日本人らしい『おもてなしの心』を示す存在であってほしいですね」。

修練によって磨かれる技と心。


唯一無二、一期一会
写実的かつ芸術的に
日本を象徴するもの。

一つずつ丹念に仕上げられる和菓子はまさに伝統工芸品。自然の風物を微妙な色彩で表現し、あずきやよもぎなど自然素材の繊細な風味を引き出すために、道具選びから製法技術、味の決め手となる甘みの強弱といった細部にまでこだわっている。

日本の風俗や慣習を
ひとつの和菓子に託して、
おもてなしの心を贈る。


  日本の「おもてなし」の文化には、昔からお茶とお菓子が供されてきました。もてなす側の心構えとして知っておきたいのは、和菓子の作り手の思いです。職人は代々の製法や技術を正統に受け継ぎ、歴史や地域性、季節感や素材の持ち味といった和菓子の特性を、手作りで表現しています。もてなす側はそうした魅力を相手方に伝えるために、季節やTPOにあわせて菓子を選び、菓銘を語り、他愛のない話などを織り交ぜながら、じっくりと味わってもらうことが大切です。「たった一つの小さな和菓子が、一つの大きな媒体になる」。小松さんのその言葉が、和菓子が現代にまで伝えられてきた意味を如実に物語っています 。
(スプーン2008年4月号に掲載)

取材・撮影協力=小松屋、虚庵会
Special Thanks to Komatsuya, Kyoankai
〈参考文献〉
『日本の菓子 第一巻 心』ダイレック
千宗室『新版 裏千家茶道のおしえ』NHK出版
『和のお稽古BOOK はじめての茶の湯』成美堂出版

高橋江里子=取材・文
text by Takahashi Eriko
和島諭=写真
photograph by Wajima Satoru
日向香=デザイン
design by Hinata Kaori

 

1
まずは持ち物チェック懐紙と菓子切りを懐中へ。「菓子器がお皿の場合」編。

懐紙はお菓子をのせたり、器を拭く紙のことで、菓子切りは楊枝のこと。今回は茶菓子の中でも主菓子を例にご説明します。茶席で定座につき、亭主から「お菓子どうぞ」と出されたら、まず一旦器を左にずらして、次客へ「お先に」と挨拶し、をまた手前に戻します。

2
取り箸の持ち方や運び方もスムーズだと◎。
緊張感を持続させよう。

懐紙を取り出し、「わ」を手前にして膝の前に置きます。次に、器から箸を取りますが、まず右手で上から箸を持ち、左手を添えて、右手で持ち直します。お菓子を懐紙に取ったら、懐紙の端を折って箸先を拭いて、箸を器の上に戻したら、器を次客へと送ります。

3
お菓子を五感で楽しむことを忘れずに!
慌てずこなせば大丈夫。

懐紙ごと手に取り、あらかじめ懐紙の中に用意しておいた菓子切りを取り出します。この動作で、お菓子が懐紙から転がってしまわないよう脇を締めて出来るだけ低い位置に持ちましょう。お菓子はまず半分に切り、さらに自分が食べやすい大きさに切っていただきます。

4
出されたお菓子は全部いただくのがマナー
使った懐紙は持ち帰って。

菓子をいただいたら、菓子切りを懐紙で拭き、入れ物に納めて懐紙と一緒に懐に戻します。また、黒文字の場合は、懐紙の上にのせて2〜3枚返して畳み、さらに半分に畳んで懐に入れて持ち帰ります。この時のために、最初から懐紙を返しておいてもスムーズです。


◆バックナンバーもチェック!
1.和菓子編 | 御菓子司 小松屋(2008年4月号)
山水花鳥風月を映し、日本人の美意識を形にした 五感で味わう芸術品。
2.パン編 | モンパン(2008年5月号)
食卓にあるだけで心豊かに、楽しみふくらむ、パンのある暮らし。

3.花編 | Rosa(2008年6月号)
もの言わぬ花々が、その色彩や造形に託した
癒しのメッセージ。
4.寿司編 | 寿司・割烹 鈴政(2008年7月号)
カウンターに座り、自然体で味わってみたい
粋な大人の旨し時間。

5.フレッシュジュース編 |
フルーツデリにしむら
(2008年8月号)
ビタミンカラーを心と身体に取り入れて
彩る、ヘルシーライフ。
6.カクテル編 | BAR ChiC(2008年9月号)
シックに、カジュアルに、自分の特別な空間で鮮やかなカクテルに酔う。

7.紅茶編 | プティポアン(2008年10月号)
ゆっくり過ごしたい時間。お気に入りの紅茶をいれ、体と心で豊かに味わう。

11.ワイン編 | ワインバー&ダイニング Ravi(2009年2月号)
料理、会話、場の空気。素敵なテーブルを演出する気軽で楽しいワイン術。



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