日本人の美徳を以て、心象風景を描く
人の一年一生と密接に関わる奥深き逸品。

こうした歴史を持つ和菓子は、「五感で味わう芸術」といわれます。例えば、美しい姿形や色彩を【視て】、日本の歴史風情を綴った菓銘を【聴き】情景を思い浮かべながら、茶道や香道の影響を受けた繊細な匂いを【嗅ぎ】、舌触り、歯触り、手触り、喉越しを楽しみ、素材の風味を【味わう】といったように、日本人の繊細さをもってすれば、和菓子はじつに豊かに楽しむことができるのです。
では今、私たちの暮らしの中で、和菓子はどんな存在なのでしょう。「今はあらゆる情報が手に入るので、じっくり自然を観察したり、味を吟味したりと、『自分たちで感じる』ということが少なくなったように思います。和菓子を通してその感性を見つめ直すきっかけになればと思いますし、日本人らしい『おもてなしの心』を示す存在であってほしいですね」。
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修練によって磨かれる技と心。 |

唯一無二、一期一会
写実的かつ芸術的に
日本を象徴するもの。
一つずつ丹念に仕上げられる和菓子はまさに伝統工芸品。自然の風物を微妙な色彩で表現し、あずきやよもぎなど自然素材の繊細な風味を引き出すために、道具選びから製法技術、味の決め手となる甘みの強弱といった細部にまでこだわっている。 |
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日本の風俗や慣習を
ひとつの和菓子に託して、
おもてなしの心を贈る。

日本の「おもてなし」の文化には、昔からお茶とお菓子が供されてきました。もてなす側の心構えとして知っておきたいのは、和菓子の作り手の思いです。職人は代々の製法や技術を正統に受け継ぎ、歴史や地域性、季節感や素材の持ち味といった和菓子の特性を、手作りで表現しています。もてなす側はそうした魅力を相手方に伝えるために、季節やTPOにあわせて菓子を選び、菓銘を語り、他愛のない話などを織り交ぜながら、じっくりと味わってもらうことが大切です。「たった一つの小さな和菓子が、一つの大きな媒体になる」。小松さんのその言葉が、和菓子が現代にまで伝えられてきた意味を如実に物語っています 。
(スプーン2008年4月号に掲載)
取材・撮影協力=小松屋、虚庵会
Special Thanks to Komatsuya, Kyoankai
〈参考文献〉
『日本の菓子 第一巻 心』ダイレック
千宗室『新版 裏千家茶道のおしえ』NHK出版
『和のお稽古BOOK はじめての茶の湯』成美堂出版
高橋江里子=取材・文
text by Takahashi Eriko
和島諭=写真
photograph by Wajima Satoru
日向香=デザイン
design by Hinata Kaori |
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まずは持ち物チェック懐紙と菓子切りを懐中へ。「菓子器がお皿の場合」編。 |
 
懐紙はお菓子をのせたり、器を拭く紙のことで、菓子切りは楊枝のこと。今回は茶菓子の中でも主菓子を例にご説明します。茶席で定座につき、亭主から「お菓子どうぞ」と出されたら、まず一旦器を左にずらして、次客へ「お先に」と挨拶し、をまた手前に戻します。 |

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取り箸の持ち方や運び方もスムーズだと◎。
緊張感を持続させよう。 |

懐紙を取り出し、「わ」を手前にして膝の前に置きます。次に、器から箸を取りますが、まず右手で上から箸を持ち、左手を添えて、右手で持ち直します。お菓子を懐紙に取ったら、懐紙の端を折って箸先を拭いて、箸を器の上に戻したら、器を次客へと送ります。 |

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お菓子を五感で楽しむことを忘れずに!
慌てずこなせば大丈夫。 |

懐紙ごと手に取り、あらかじめ懐紙の中に用意しておいた菓子切りを取り出します。この動作で、お菓子が懐紙から転がってしまわないよう脇を締めて出来るだけ低い位置に持ちましょう。お菓子はまず半分に切り、さらに自分が食べやすい大きさに切っていただきます。 |

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出されたお菓子は全部いただくのがマナー
使った懐紙は持ち帰って。 |

菓子をいただいたら、菓子切りを懐紙で拭き、入れ物に納めて懐紙と一緒に懐に戻します。また、黒文字の場合は、懐紙の上にのせて2〜3枚返して畳み、さらに半分に畳んで懐に入れて持ち帰ります。この時のために、最初から懐紙を返しておいてもスムーズです。 |
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