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 Home > バックナンバー > 「庄内湯の宿めぐり」 > あつみ温泉 たちばなや


取材・文=渋谷みね子
text by Shibuya Mineko
編集=高橋江里子
edition by Takahashi Eriko
写真=板垣洋介
photograph by Itagaki Yosuke
アートディレクション=日向 香
artdirection by Hinata Kaori
2004年3月号掲載 series.12

【今回お訪ねした温泉旅館】
 
【お話しをきいた方】 営業部長 相馬博志さん

目に映る自然に四季を感じながらこだわりの料理を存分に楽しむ。

 冬の日本海は時として荒々しい美しさを魅せることがあります。大きくうねりながら体当たりで岩にぶつかる波は、見ているものを奮い立たせるようなパワー。今日は強い潮風とともに波の花が舞う道に車を走らせながら、静かで素朴な温泉地、あつみ温泉に向かいました。

 海から少し離れたせいでしょうか。風は幾分弱まり、温泉街は静かな佇まいを見せていました。今日のお宿「たちばなや」は温泉街でもひときわ大きなお宿です。美しい勾配と和の伝統美を表現した重量感あふれる入母屋づくりのエントランス。その正面の壁には宿の象徴である橘の花がくっきりと映しだされ、350年の歴史を醸し出しています。木をふんだんに使い風情たっぷりのアプローチからロビーに足を踏み入れると、目に入ったのは磨きのかかった漆塗りのカウンター。金粉で描かれた橘と和歌がバランス良く配されています。ロビー全体の格調高い雰囲気に少し緊張していると「いらっしゃいませ」と迎えてくれたスタッフの笑顔に、思わず笑みを返しながら、次第に心がほぐれていくようでした。

 ふとロビー隣りのラウンジに目をやると、広い窓ガラスを通して庭園が見事な美しさを魅せています。うっすらと残る雪が地面を隠し、厳冬の中でも鮮やかな花を咲かせる山茶花、雪吊りが施された松、そして流れるように配された大きな池には、たくさんの錦鯉が美しさを競い合っていました。四季それぞれの美しさは、さぞや見ごたえのあるものでしょうね。さらに時間をかけて眺めるのは後の楽しみにとっておくことにして、チェックインを済ませさっそくお部屋に案内していただきました。

 館内78のお部屋はすべて和風のつくり。特に離れ「環翠荘(かんすいそう)」は先ほどロビーで眺めたお庭が心ゆくまで楽しめるお部屋です。間取りは純和風のお部屋と、掘りごたつのあるもう一つの和室、そして檜の内風呂。大きな宿ゆえに多くの人たちが出入りするとあっても、このお部屋は別世界の静寂に包まれています。美しい庭はロビーで見た情景よりもグッと近くに感じ、まるで自分のお庭のよう。雪化粧をした趣は、癒し効果抜群のスクリーンとなります。

 古くから名湯として知られるあつみ温泉。お湯があふれ出る大浴場は、天井が高くて開放感いっぱいです。床暖房が施されているので、石特有のひんやり感がなくて快適。一人ずつ仕切ってある洗い場は、お隣りに気を使う必要がないゆったりしたスペース。露天風呂やサウナも充実し、まろやかなお湯が体を包み込んでいきます。この宿のオススメのお風呂は六階にある二つの貸切露天風呂。その名も「星の湯」と「月の湯」。お風呂に入りながら、ゆったりゆるゆる美しい山並や広い空を眺めます。夜ならば、飛び込んでくるのは満点の星空。澄んだ空気が星を瞬かせ、一人で見るのはもったいないくらいの美しさ。また脱衣所にはお風呂に浮かべる専用の桶と飲み物が用意されていますから、お湯に浮かべて楽しい湯浴みも味わえます。

 ゆっくり体をリフレッシュさせた後は、お部屋での美味しい夕食とあいなります。地物の元気な素材を中心にした前菜や小鉢から始まり、食べ頃の温度で運ばれてくる山海の幸は、疲れた体とお腹を満たしてくれます。庄内の地酒とともにゆっくりゆっくりいただき、今宵もまた美食と美酒に酔いしれてしまいました。

 たちばなやはこれまで皇室三代をお迎えしている由緒ある宿ですが、決して敷居が高くもなく、堅苦しくもありません。すべてがお客様本位。満足をもたらすツボを押さえたサービスや、この宿にして良かったと感じさせる演出が心を癒してくれるようです。自分へのご褒美に、たまにはこんな贅沢も必要なんですよね。

由緒ある佇まいを見せる玄関。宿名の「たちばな」は一年中瑞々しい葉をつける常緑小高木。古事記では尊い生命力が宿ると信じられている。 いくぶん光を落としたロビーは、センスの良いモダンな内装。
   
ラウンジは庭園を心ゆくまで眺められる最高のポジション。 ゆとりの広さが嬉しい、離れの和室。窓の外は池を配した庭園が広がっている。
   
離れの内風呂。光が溢れる清々しい檜の香りが心を癒す。 大浴場。大きな湯船の中央にある長い丸太に頭を置けば、長時間浸れる嬉しい配慮。
   
女性用の露天風呂。 遊び心溢れる貸切展望露天風呂「月の湯」。
   
趣向を凝らした料理の数々。地元の素材が美味しさの原点である。 米沢牛サーロインステーキ。
 
たっぷり野菜が入った饂飩にはファンが多い。
山形県温海町 あつみ温泉

 開湯1000余年の歴史を誇る湯の街にも、その昔お雛見の風習があったといいます。あつみ温泉地内では3月1日〜31日の間、数軒の旅館や商店を会場に「湯のまち人形めぐり」を開催しています。湯めぐりと共に雛めぐりの散策をお楽しみください(拝観料は無料)。
(文・高橋江里子)

あつみ温泉 たちばなや

「たちばなや」では日帰り入浴も行っています。ご利用は12時〜15時まで(当日の宿泊状況により利用できない場合もありますので、直接お問い合わせください)。旅行業関係者によって選出される「第29回プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」(旅行新聞新社主催)において、平成14年度「たちばなや」は、もてなし部門6位、料理部門11位、施設部門18位、企画部門33位と、昨年に続き上位にランクインしました。

住所 温海町湯温海丁3
電話番号 0235-43-2211(代)
URL http://www.e-tachibanaya.com/
宿泊代 お一人様一泊二食付き
南館 15,750円(消費税込み、入湯税別)
西館 19,950円(消費税込み、入湯税別)
東館 24,150円(消費税込み、入湯税別)
離れ環翠荘 31,500円(消費税込み、入湯税別)
部屋数 78室
チェックイン 15時
チェックアウト 10時

■「庄内湯の宿めぐり」バックナンバー


2003年4月号
湯どの庵
[湯田川温泉]
2003年5月号
游水亭 いさごや
[湯の浜温泉]
2003年6月号
萬国屋
[あつみ温泉]
2003年7月号
珠玉や
[湯田川温泉]
2003年8月号
海辺のお宿 一久
[湯の浜温泉]
2003年9月号
亀や
[湯の浜温泉]
2003年10月号
日本の宿 古窯
[上山温泉]
2003年11月号
天童荘
[天童温泉]
2003年12月号
九兵衛旅館
[湯田川温泉]
2004年1月号
龍の湯
[湯の浜温泉]
2004年2月号
名月荘
[上山温泉]
2004年3月号
たちばなや
[あつみ温泉]

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