細やかな配慮と粋な空間の中で気のむくままに時間を楽しむ贅沢。
空の彼方から静かに下りてくる雪。内陸特有のしんしんと降り積もる雪景色に佇む、上山温泉葉山の「名月荘」が今宵のお宿です。駐車場に到着すると、雪に濡れないようにとスタッフの方が番傘をそっと差し出してくれました。そんな気遣いを嬉しく思いながら石段を登ると、まずは囲炉裏のある門屋。毎日薪で燻され、独特の香りと煙に包まれています。懐かしい思いに五感を刺激されながらさらに石段を上ると、純和風に演出されたアプローチとは趣が異なり、異国情緒が漂う玄関。迎えられた魅力の設えに、この先に広がる空間へも期待が膨らんでいきます。
にこやかに迎えてくれたスタッフに促されてチェックイン。山葡萄の果汁をいただきながらロビーやラウンジに目をやると、アジアンテイストと和風建築が融合した室内は、雪景色のモノトーンな風情とも不思議に溶け合って、これまでに感じたことがない居心地に心が解き放たれていくようです。スタッフの方に、アジア雑貨が並ぶお店や、ワインセラー、家族風呂、それにリフレクソロジー(足裏健康法)ルームを案内していただきながらお部屋へ向かいました。館内のいたる所にある個性的な椅子や調度品、庭が見えるパブリックスペース、ヤシの木の繊維で織った絨毯の廊下など、リゾートホテルを連想するよう。お部屋は渡り廊下で結ばれた離れ屋風なので多少遠く感じるかもしれませんが、歩く廊下や、けっして緩やかとはいえない階段は、少しも苦にはなりません。むしろそんな空間を楽しみたい思いにかられてしまうほど。
今宵のお部屋は「茜」ですが、20室の客室はすべて造りが異なり、バラエティ豊富です。どの部屋もゆったりとした和室とミニキッチン付きのダイニングルームが設えてあり、また部屋によってはお洒落な内風呂や専用テラスがあるなど、我が家のように寛げる自由で贅沢なスタイルは、この宿ならではのものです。朝夕のお食事はお部屋でいただけるうえに、朝食はダイニングルームに用意されるので朝はゆっくり。朝食後もお布団はそのままですから、11時半のチェックアウトまで横になっていられるという快適さです。旅先であっても、自分らしくリラックスしてほしいという気配りがのぞくもてなしですね。
さて夕食までの時間、お風呂にしようか、それともこの宿人気の談話室に足を運んでみようか迷うところですが、道中の疲れを癒すためにまずは大浴場へ。御影石が美しい湯船には良く温まる透明なお湯が満たされ、壁や天井の檜からは清々しい香りが漂います。体を沈めると、お庭が眺められ開放感いっぱい。
お風呂から出て一息つくと、さっきまで雪に煙っていた景色がいつのまにか晴れて、上山温泉街や雄大な蔵王連峰が見えてきました。街の灯りや、遠くに見える蔵王スキー場のライトアップが燈りはじめた、黄昏どきの情景もまた格別。このまま時を止めてしまいたいくらいです。
夕食は地元の素材を使い季節感と郷土色を盛り込んだ会席料理。ちょうど良いタイミングで一品一品運ばれてきます。食事の前にワインセラーで選んだ日本酒やワインと共に、料理長の愛情溢れる料理に魅了されていきます。朝食も好評で和食と洋食から選び、内容も充実。かなり満腹なはずなのに、今から朝食を楽しみにしてしまいます。
今ここで、館内にある心地良い空間や、体感する癒しのすべてを表現するすべは見つかりません。それは一人一人が自分流の寛ぎを創造する宿であるからだと感じています。月が照らし出す輝きのように、優しく柔らかなもてなしと、ゆるやかな時の流れにいつまでも身を委ねていたい最高の宿を見つけました。 |