毎日の暮らしに、ほんのひとさじの夢を探して、
私たちはこの街に住むあなたを応援します。
スプーンネット
トップページへ 特集 バックナンバー

 Home > バックナンバー > 「庄内湯の宿めぐり」 > 天童温泉 わが家。わが宿。 天童荘


取材・文=渋谷みね子
text by Shibuya Mineko
編集=高橋江里子
edition by Takahashi Eriko
写真=板垣洋介
photograph by Itagaki Yosuke
アートディレクション=日向 香
artdirection by Hinata Kaori
2003年11月号掲載 series.8 …お出かけ編…

【今回お訪ねした温泉旅館】
 
【お話しをきいた方】 専務取締役 伊藤 豪さん

静寂の中で湯に浸り、旬味に酔う。大人にこそ満喫してほしい寛ぎ。

 例年より、早めに見頃を迎えた月山道の紅葉。右に左にと目を移しながらそのあでやかさを堪能し、車は今日のお宿である天童温泉を目指します。天童といえば、将棋の駒といで湯とフルーツの里。周辺には人気スポットも多い魅力的な温泉街です。

 今回ご紹介する宿「天童荘」は、部屋数を十七室に抑え、一部屋を一人の仲居さんが責任を持って担当してくれる気配りのゆきとどいた宿。木をふんだんに使った純和風総平屋造りの外観は、古き良き伝統の佇まいを見せていました。玄関の風にそよぐのれんに腕を通せば、磨き上げられた柱や床板と、白壁のコントラストが目に鮮やかなロビー。そして陽の光が差し込む天窓付きの高い天井など、日本建築の素晴らしさを再認識せずにはいられません。

 ぬくもりある灯りだけのほの暗い廊下が、訪れるものを柔らかな気持ちに包みこんでくれるよう。随所にさりげなく置かれた調度品は、上品な中にも個性が光り、思わず見入ってしまうこともしばしば。宿の楽しさは、こんなところでも十分に満喫することができるものです。

 賑やかな温泉街の中にある宿ですが、ここは静寂そのもの。シックで清々しい室内は掛け軸と女将が生ける山野草が部屋に彩りを添え、心を和ませます。お抹茶とともに地元で作られたお菓子をいただきながらチェックインを済ませたら、早速お風呂をいただきましょう。浴衣は着替え用と二枚が用意され、それと一緒に靴下タイプの足袋もそっと添えてあります。また洗面台に行ってみるとお手拭用には柔らかなガーゼのハンカチが幾枚も置かれているなど、使いやすさを重視した細やかな気配りが感じとれます。

 この宿は本館と離れ「離塵境(りじんきょう)」で構成されていますが、離れの全室と本館の六室には、木肌が白く香り高い高野槙の内風呂に温泉がひかれ、気兼ねなく湯浴みができます。また広々とした大浴場では、打たせ湯や趣のある露天風呂が楽しめ、旅の疲れを癒してくれるよう。湯船に身を沈め手足を伸ばして天を仰げば、中央の柱から放射状に走る梁が美しく、明かり取りの窓からは日差しが差し込んで開放感に満ちあふれています。

 ほてった体は湯上りサロンで一息つくのが良いでしょう。全体は純和風な建物ではありますが、ここはガラリと趣の違う洋の空間。他にも真っ白な空間のワインのテイスティング室「赤洒々倶楽部」、そしてお客様が自由にくつろげる「サロンルポ」は、まるっきり洋の造りとなっています。基本を和におき、さらに際立つ洋の空間を入れ込む。それが妙に心地良く、宿の主人の狙いどおりに日本建築がよりいっそう引き立つ気さえしてくるのが不思議です。

 明治初期に創業した天童荘は、うなぎ料理をお出しする料亭が前身。また、茶道を基本とする料理長の繊細なセンスが発揮され、地物を生かした料理が最高のタイミングで目の前に出されます。それは天童荘懐石と名づけられ、美しい器とともに目と舌で味わう華やかな饗宴。美味しいものをちょっとずつというご要望に応え、品数が多くなっていますが、味の良さと美しい盛り付けに後押しされ、気が付けばすべてお腹におさまってしまいます。

 また不定期で年に数回「旬を食べる会」を開催していて、音楽などを楽しみながら季節の旬を味わうのもまた格別。さらに表千家の茶室「残月亭(ざんげつてい)」を写した茶室「楽只庵(らくしあん)」では茶会が催されるなど、様々なシーンでこの宿を利用することが可能です。

「自分の家のような宿でありたい」と願うこの宿の姿勢は、居心地のいい室内、気持ちの良い温泉、季節が盛り込まれた繊細な料理で、お客様のかけがえのない時間を最高のものにしてくれます。

お客様に自由にくつろいでいただくサロン。上手に取り入れられた和のテイストがモダンな雰囲気を醸し出す。 樹齢五百数十年の老松はこの宿の伝統と風格をあらわす。
   
障子の美しさや畳の心地よさ、高い天井、そして個性的な調度品。しだいに心が落ち着いていく。
   
大浴場の向こうは庭木や月を愛でながら浸る露天風呂。 湯上りサロン。純和風の中にこんな空間が出現する。
   
かまくらをイメージした真っ白な空間のテイスティングルームで食事前にワインを。 離れ「離塵境」
   
秋が満載の品々。目と舌で味わう味の饗宴は、口に運ぶ前にまずは良く拝見しておきたい。
 
山形県天童市 天童温泉

 全国一の将棋駒の生産地である天童市。天童タワーをはじめ、街の至る所が駒形に象られています。天童駅から温泉街までの間、約1.5kmの歩道にも詰将棋が19箇所に点在してあり、ついつい足を止めて考え込んでしまいそうです。
 当初、鎌田温泉と称されていたこの温泉地は明治19年、灌漑用水を確保するため井戸を掘った際に微温泉が湧出。明治44年、高温の源泉が湧いたことをきっかけに開湯し、天童温泉と改称されました。泉質は無色透明のナトリウム・カルシウム硫酸塩温泉。天童荘では39℃〜41℃とやや低めの湯温に設定されています。(文・高橋江里子)

天童温泉 わが家。わが宿。 天童荘

天童荘までのアクセス:山形自動車道・山形JCT経由 東北中央自動車道・天童I.Cより10分。

住所 天童市鎌田2-2-18
電話番号 023-653-2033
URL http://www.tendoso.jp/
宿泊代 お一人様一泊二食付き 25,000円〜
※お部屋タイプやシーズンにより異なる
部屋数 17室
チェックイン 15時
チェックアウト 11時

■「庄内湯の宿めぐり」バックナンバー


2003年4月号
湯どの庵
[湯田川温泉]
2003年5月号
游水亭 いさごや
[湯の浜温泉]
2003年6月号
萬国屋
[あつみ温泉]
2003年7月号
珠玉や
[湯田川温泉]
2003年8月号
海辺のお宿 一久
[湯の浜温泉]
2003年9月号
亀や
[湯の浜温泉]
2003年10月号
日本の宿 古窯
[上山温泉]
2003年11月号
天童荘
[天童温泉]
2003年12月号
九兵衛旅館
[湯田川温泉]
2004年1月号
龍の湯
[湯の浜温泉]
2004年2月号
名月荘
[上山温泉]
2004年3月号
たちばなや
[あつみ温泉]

pageup▲



月刊SPOON編集部

山形県酒田市京田2-59-3 コマツ・コーポレーション内
電話 0234(41)0070 / FAX 0234(41)0080


- 会社概要 - お問い合わせ -
Home Page上に掲載している写真・テキストの著作権は、SPOON編集部およびその著者に帰属します。
無断転用(加工・改変)、ネットワーク上での使用等はご遠慮下さい。
このサイトに掲載しているものは全て、個人でお楽しみ頂くためのもので、著作権は放棄しておりません。