さりげない創意と工夫が随所に光り、あくまでも温かいとっておきの宿。
山形県内には良質な温泉が点在し、温泉宿はどこも個性豊か。それぞれに特徴を生かした魅力溢れるもてなしで、全国地に山形の温泉ファンを広げています。今日の湯の宿めぐりは、庄内から、一路、上山温泉へと足を伸ばして「日本の宿 古窯」をご案内いたしましょう。
客室数150室という大規模な宿は、上山温泉街の高台に、その風格ある姿を見せています。広いロビーではピンクの濃淡が美しいコスモスと、ススキを取り合わせた秋らしい花がお出迎え。その横には形良く盛られたお団子。そうそう、今日は中秋の名月です。目線を上げると月までぼんやり写しだされて、なかなか凝った演出。こちらでは館内300ヶ所に個性豊かな花々が飾られています。聞けば、フラワー課という花専任の課が設けられているそうで、そのどれもが、この宿のセンスと生けた方の心が伝わる生き生きしたもの。
「いらっしゃいませ。お疲れ様でございました」澄んだ秋空を思わせるような着物姿の係りの方に案内され、フロントでチェックイン。お部屋に向かう途中では、古窯名物の楽焼を展示している「らくやき画廊」に注目です。この宿に泊まった著名な方々の作品が展示され、その数3500枚。まさに宿の歩みを物語るようです。お部屋に到着して一息ついたら、もう一度ここにきて、ゆっくりと眺める事にしましょう。
さて、この宿の一番人気のお部屋は露天風呂付き客室です。8畳と4.5畳のふた間がふすまで仕切られていて、8畳のお部屋には掘りごたつ式の応接セットが完備。そして木目が清々しい露天風呂では蔵王の山々や星空を眺めながら、心おきなく湯に浸かる贅沢を満喫できます。また、全部のお部屋に共通することですが、浴衣は朝と夕に着替えができるようにと二着づつ用意されていたり、針や糸、ボタンなどの入ったお針箱がさりげなく置いてあったり、一日ごとに新鮮なお茶をいただける封切り茶が用意されているなど、嬉しいサービスを次々に発見しました。
この宿の特徴のひとつとして掲げられるのが、オープンキッチン。板前さんの素晴らしい包丁裁きをガラス越しに見れる業界初の空間。その鮮やかな技術に魅せられながら、お料理への期待度は最高潮となります。心躍らせながら席に着くと、テーブルには温かみのある文字と絵で描かれたお品書きや、らくやき画廊に展示されている皿や文字がデザインされている箸袋が置かれ、これがまた実に楽しい! 食事の会話もいっそう弾みます。料理は地元の素材を取り入れ、素材を生かした和風料理。特に牛肉は米沢のチャンピオン牛を仕入れた自慢の素材。いかように調理しても美味しい事請け合いです。さらに「秋の松茸会席といも煮会」は十月末まで開催される特別企画で、松茸をふんだんに使った料理の品々でお客様を魅了します。
美味で滋味溢れる食事と並んで、おすすめしたいのがお風呂。一階にある「紅花風呂」と八階にある「蔵王」はどちらも100人〜150人が入浴できるかなりの広さ。お昼12時と深夜に男女が入れ替わり、どちらもサウナや露天風呂が楽しめます。なかでも「蔵王」では、蔵王連峰から昇る日の出を、また夜は上山市街地の夜景を眼下に見ることができます。そして午前中に女性用となる「紅花風呂」は、パウダールームが充実。お風呂あがりに朝の身支度ができるように配慮されています。
館内のいたるところに、細やかな心配りと美しい空間を創り上げている古窯。人の心を人の心で満たしたいという宿の姿勢が、しっかりと感じ取れる宿は、温泉にじっくり浸かり、美味しいものをたらふく味わう。そんな願いがかなう宿。ここならではの上質の時間が刻まれます。 |