由緒ある木造日本建築の別館と近代建築の新館を備えた伝統の宿。
何度足を運んでも、新鮮な思いで見渡す海の情景。夏の強い日差しから開放された九月の湯野浜海岸は、初秋の柔らかな表情で私たちを迎えてくれます。
湯野浜温泉の伝説に登場する亀に由来して命名された宿「亀や」は、温泉街の中でもひときわ大きな宿。滝が流れ落ちる大きな門構えには風格が溢れます。玄関までのアプローチを歩けば広いお庭と一緒に亀やのシンボル「龍宮殿」が優美な姿を見せ、お客様の到着を出迎えてくれます。龍宮殿は昭和2年に建築された木造の書院風づくり。歴史ある建物同様、大山の善寶寺の仏師が彫ったと言われる精巧な彫刻をはじめ、質の高い調度品や家具、美術品、工芸品に囲まれた室内には上質な時が流れます。将来、昔ながらの日本建築に愛着が湧く年齢になった頃、きっと泊まってみたいお部屋です。そんな龍宮殿を彩るように、橙色の百合の花が鮮やかに咲いていました。
玄関を入ると広々としたロビーの中を、川が流れる大胆な造り。天井から降り注ぐ光に映し出された竹林や重厚な石作りの橋とともに、実に印象的な空間です。また、ロビー真中にあるお茶処「萬年寿」では、八種類が調合された健康茶を鉄瓶のお湯でいただくことができます。
いくつもの表情が楽しめるロビーを後にして、スタッフに案内されるままお部屋に到着。窓を開けると、目前に広がる海から潮騒と磯の香りが包み込みます。お天気にも恵まれた今日の夕方には、夕陽の美しさにも出会えるであろうと期待度満点。桜湯と手作りの和菓子をいただきながら、思わず笑みがこぼれます。
さて、今日の宿泊は、とりわけお客様のプライベートを大切にしてゆっくりと過ごしていただける「潮音プラン」。お料理の内容はもちろん、これまで以上に徹底した作りたてのお料理をお出しできるようにと、潮音プラン専用の調理場とお部屋専任スタッフで構成された贅沢なプランです。お部屋でのチェックインも先程いただいた手作りの和菓子も、潮音プランならではのもの。また朝の食事も潮音プラン専用の会場でとれ、食事の後も11時のチェックアウトまでゆっくりお布団で横になっていられるなど、お客様の気持ちを考慮し、ゆったりとくつろいでいただくための気配りが光ります。
そんな宿の自慢のひとつがお風呂。男女とも大浴場と露天風呂が完備されていて、もちろん景観も満点。爽快な気分にさせる大海原と心地よいお湯が、どこか気忙しく過ごした8月の日々の疲れをゆっくりと癒やすようです。そしてご家族で愉しむならば、檜の香りが漂う貸切風呂「松の湯」がおすすめ。家族が多くても大丈夫。湯船は贅沢なほどにたっぷり余裕の広さです。
ゆったりとした湯浴みの次は、お部屋でのんびりお食事を楽しみましょう。お料理は地の素材を生かし、ひと手間加えた品々。料理に対するこだわりを感じるものが並び、四季折々の自然の贈り物を存分に味わうことができます。特に潮音プランは温かい物は温かいうちに、冷たい物は冷たいうちにを心がけてお出ししてくれる心づかいが、お料理の味をいっそう際立てています。
一階のラウンジにはカラオケやクラブが完備されていますが、土蔵作りで重厚な店構えの酒と肴の「蔵」も魅力的。なかでも麦きりと特製スープのラーメンが人気だそうで、お酒の後、小腹が空いた方は是非のれんをくぐってみてください。
心地良い温泉に浸る時間も、美味しい料理を味わう時間も、目の前にはいつも雄大な日本海。伝統ある宿でありながら、施設、宿泊プラン、料理など、更に進化を続けるスタイルに、また次回に訪れるのが楽しみな海の宿です。 |