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 Home > バックナンバー > 「庄内湯の宿めぐり」 > 湯野浜温泉 海辺のお宿 一久


取材・文=渋谷みね子
text by Shibuya Mineko
編集=高橋江里子
edition by Takahashi Eriko
写真=板垣洋介
photograph by Itagaki Yosuke
アートディレクション=日向 香
artdirection by Hinata Kaori
2003年8月号掲載 series.5

【今回お訪ねした温泉旅館】
 
【お話しをきいた方】女将 木村君子さん

温かなもてなしと絶妙の料理。海のパワーを体に感じて。

 季節ごとさまざまな表情をみせてくれる日本海。とりわけこの季節の湯野浜はスカッとした爽快感に満ちあふれ、水色の空、青い海、白い砂浜が夏の到来を物語ります。車窓から入り込む潮風を満喫しながら温泉街に車を走らせ、今日の宿「海辺のお宿 一久」に到着しました。

 玄関前では到着前から、接待さんが出迎えてくれています。その柔らかな笑顔に、こちらも安堵の気持ちがこみ上げてくるよう。車を止め、玄関からまっすぐロビーにはいると前方の大きな窓に、湯野浜海岸の美しい情景が広がります。山の傾斜をうまく利用して建てられている宿なので、海に面するロビーは2階くらいの高さ。さきほど車の中から眺めた時よりも視界はますます広がって、海も空も砂浜もずっと先まで見渡す事ができます。

 まずは足を伸ばしてくつろいでいただきたいという宿の配慮から、チェックインはお部屋で。今春からこのシステムが実施されたということで、もてなしにこだわる宿の姿勢が感じられます。温もりのある明るく落ち着いたお部屋は全室海岸向き。どのお部屋からも朝な夕なに海の風景を目の当たりにすることができ、素晴らしい夕陽も期待できそうです。夏の頃なら、日の入りは午後七時前。まずはお風呂に体をゆだね、夕陽を眺めるシチュエーションをゆっくりと考えることにしましょう。この時間、男性は上の階の「海の原」(わたのはら)、女性は下の階の「天の原」。どちらも海を見ながら湯浴びができますが、「海の原」には飲泉設備が、「天の原」には露天風呂があり、それぞれに楽しみが用意されています。特に露天風呂は自然石で組まれた湯船、とりまく木々と竹ののれん、海を垣間見せてくれる板塀と和風情緒豊か。この日は遅咲きのアジサイが深い紫色を放ち、湯船に浸かる人々の目に鮮やかに映ります。お湯は天然温泉の効果が最大限に生かされた掛け流し。源泉をそのままお風呂に導き、湯量で温度調節されています。ナトリウム泉ですから塩分が体を覆って汗の蒸発を防ぎ、いつまでも体がホカホカ。あがり際にシャワーで流すなんてことはもったいないことだそうですから、どなた様もご注意ください。

 夏の日差しに疲れた肌を癒したところで、お部屋に運ばれた食事に舌鼓を打つことにしましょう。知人にこの宿の話を持ち出すと皆が口を揃えたように食事の美味しさを賞賛するほど、お料理には定評があります。聞けば、料理長は金沢を皮切りに各地の厳しい料亭で修行を重ね、きっちり仕込まれた頑固な料理人。素材を大切にしながら、手をかけすぎない手づくりを大切にしているそうで、一皿一皿進むごと、期待以上の味が口に広がります。特にこの時期、庄内は山海の幸に恵まれる季節。こだわりの味を追求する料理長の目で厳選された素材たちは、さらに魅力を増して目の前に繰り広げられていきます。料理と共に愉しむ地酒もまた格別。互いの味がさらに引きだされ、傾ける杯の数が増えていくよう。いつしか夕暮れを迎えて辺りが茜色に変わる頃、お客様の頬もほんのり染まっていきます。

 満腹のお腹を抱えても是非足を運んでいただきたいのが、宿の中にあるスナック「小町」。カクテル作りを学んだ美奈子ママが作るオリジナルカクテルは季節ごとにアレンジされ、素敵なネーミングがついています。

 大きな宿では味わうことができない、さりげなく細やかなサービスが17室に抑えたこの宿の最大の持ち味です。創業者「池田一太郎」の「一」と、屋号「久兵衛」をあわせ名づけた「一久」は、お風呂やお部屋、お料理、そしてもてなしにいたるまで、創業の頃の思いを今に伝える温もりの宿。泊まれば必ず温かな心づかいが伝わってきます。

真冬も入れる露天風呂はスライド式の板塀から海が望める。 特別室「九重」はゆったりとした空間。
   
全室すっきりとした和風の客室。 センスが光るさりげない空間。
   
「小町」の美奈子ママ特製、オリジナルカクテル。(写真提供=海辺のお宿 一久) ウニ、鯛、スズキ、アイナメ、海老のお刺身盛り合わせは新鮮そのもの。
   
丁寧に作られた前肴の品々は箸を進ませる。 鮑、岩ガキ、サザエと贅沢に並ぶお造りの貝づ くし。
   
飛島特産の「ごどいも」を素材にした、この夏の料理長オリジナル「じゃが芋饅頭」。どんな味なんだろ? と想像がふくらむ一品。 夏にだけ高品質庄内豚のしゃぶしゃぶが登場。
 
口細カレイの素焼き。
山形県鶴岡市 湯野浜温泉

 日本海に面した海辺の温泉地、湯野浜温泉。古くから栄えた歓楽地の面影をそのままに、毎年夏になると、海水浴やマリンスポーツを楽しむ人たちで賑わい、庄内屈指のリゾート地として、今なお変わらない人気を誇っています。
 湯野浜温泉本町の商店街側と海側の2つの通りは、それぞれ「どさ(どこに?)湯さ(お風呂に。)通り」「瀬のし海道」と名づけられ、散策を楽しむことができます。足湯に面するメインストリートのどさ湯さ通りには、「夕陽ギャラリー」や休憩所、写真・絵などを軒先に飾った「湯の街そぞろ歩きギャラリー」が新設。手作りリース展示やイベント開催など、歩いて楽しい企画は11月まで続きます。
(文・高橋江里子)

湯野浜温泉 海辺のお宿 一久

「一久」館内に飾られる、美しく可憐な押し花作品は女将が手がけたアート。

住所 鶴岡市湯の浜1-10-29
電話番号 0235-75-2121
URL http://www.net.sfsi.co.jp/ikkyuu/
宿泊代 平日二名様一室利用(お一人様一泊二食付)17,000円〜
※お部屋のタイプやシーズンにより異なる。
部屋数 17室
チェックイン 15時
チェックアウト 10時

■「庄内湯の宿めぐり」バックナンバー


2003年4月号
湯どの庵
[湯田川温泉]
2003年5月号
游水亭 いさごや
[湯の浜温泉]
2003年6月号
萬国屋
[あつみ温泉]
2003年7月号
珠玉や
[湯田川温泉]
2003年8月号
海辺のお宿 一久
[湯の浜温泉]
2003年9月号
亀や
[湯の浜温泉]
2003年10月号
日本の宿 古窯
[上山温泉]
2003年11月号
天童荘
[天童温泉]
2003年12月号
九兵衛旅館
[湯田川温泉]
2004年1月号
龍の湯
[湯の浜温泉]
2004年2月号
名月荘
[上山温泉]
2004年3月号
たちばなや
[あつみ温泉]

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