温かなもてなしと絶妙の料理。海のパワーを体に感じて。
季節ごとさまざまな表情をみせてくれる日本海。とりわけこの季節の湯野浜はスカッとした爽快感に満ちあふれ、水色の空、青い海、白い砂浜が夏の到来を物語ります。車窓から入り込む潮風を満喫しながら温泉街に車を走らせ、今日の宿「海辺のお宿 一久」に到着しました。
玄関前では到着前から、接待さんが出迎えてくれています。その柔らかな笑顔に、こちらも安堵の気持ちがこみ上げてくるよう。車を止め、玄関からまっすぐロビーにはいると前方の大きな窓に、湯野浜海岸の美しい情景が広がります。山の傾斜をうまく利用して建てられている宿なので、海に面するロビーは2階くらいの高さ。さきほど車の中から眺めた時よりも視界はますます広がって、海も空も砂浜もずっと先まで見渡す事ができます。
まずは足を伸ばしてくつろいでいただきたいという宿の配慮から、チェックインはお部屋で。今春からこのシステムが実施されたということで、もてなしにこだわる宿の姿勢が感じられます。温もりのある明るく落ち着いたお部屋は全室海岸向き。どのお部屋からも朝な夕なに海の風景を目の当たりにすることができ、素晴らしい夕陽も期待できそうです。夏の頃なら、日の入りは午後七時前。まずはお風呂に体をゆだね、夕陽を眺めるシチュエーションをゆっくりと考えることにしましょう。この時間、男性は上の階の「海の原」(わたのはら)、女性は下の階の「天の原」。どちらも海を見ながら湯浴びができますが、「海の原」には飲泉設備が、「天の原」には露天風呂があり、それぞれに楽しみが用意されています。特に露天風呂は自然石で組まれた湯船、とりまく木々と竹ののれん、海を垣間見せてくれる板塀と和風情緒豊か。この日は遅咲きのアジサイが深い紫色を放ち、湯船に浸かる人々の目に鮮やかに映ります。お湯は天然温泉の効果が最大限に生かされた掛け流し。源泉をそのままお風呂に導き、湯量で温度調節されています。ナトリウム泉ですから塩分が体を覆って汗の蒸発を防ぎ、いつまでも体がホカホカ。あがり際にシャワーで流すなんてことはもったいないことだそうですから、どなた様もご注意ください。
夏の日差しに疲れた肌を癒したところで、お部屋に運ばれた食事に舌鼓を打つことにしましょう。知人にこの宿の話を持ち出すと皆が口を揃えたように食事の美味しさを賞賛するほど、お料理には定評があります。聞けば、料理長は金沢を皮切りに各地の厳しい料亭で修行を重ね、きっちり仕込まれた頑固な料理人。素材を大切にしながら、手をかけすぎない手づくりを大切にしているそうで、一皿一皿進むごと、期待以上の味が口に広がります。特にこの時期、庄内は山海の幸に恵まれる季節。こだわりの味を追求する料理長の目で厳選された素材たちは、さらに魅力を増して目の前に繰り広げられていきます。料理と共に愉しむ地酒もまた格別。互いの味がさらに引きだされ、傾ける杯の数が増えていくよう。いつしか夕暮れを迎えて辺りが茜色に変わる頃、お客様の頬もほんのり染まっていきます。
満腹のお腹を抱えても是非足を運んでいただきたいのが、宿の中にあるスナック「小町」。カクテル作りを学んだ美奈子ママが作るオリジナルカクテルは季節ごとにアレンジされ、素敵なネーミングがついています。
大きな宿では味わうことができない、さりげなく細やかなサービスが17室に抑えたこの宿の最大の持ち味です。創業者「池田一太郎」の「一」と、屋号「久兵衛」をあわせ名づけた「一久」は、お風呂やお部屋、お料理、そしてもてなしにいたるまで、創業の頃の思いを今に伝える温もりの宿。泊まれば必ず温かな心づかいが伝わってきます。 |