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 Home > バックナンバー > 「庄内湯の宿めぐり」 > あつみ温泉 萬国屋



取材・文=渋谷みね子
text by Shibuya Mineko
編集=高橋江里子
edition by Takahashi Eriko
写真=板垣洋介
photograph by Itagaki Yosuke
アートディレクション=日向 香
artdirection by Hinata Kaori
2003年6月号掲載 series.3

【今回お訪ねした温泉旅館】
 
【お話しをきいた方】社長 本間幸男さん

桜の木々とせせらぎに抱かれ、山と川と日本海の恵みを堪能する。

 優美なラインを描く黒瓦の屋根。重厚な趣を湛えながらも周囲の景観とバランス良く融合された日本建築。外観から内装まで純和風で統一されたこの宿は、あつみ温泉の中でも一際大きな規模を誇る「萬国屋」です。


 アァ温海岳から 温海を見れば
         ヨイヤサ
   花の湯の町 花の湯の町
       灯がともる
     サラリ サラサラ
         ヨイサノウ

温海町の豊かな情緒を唄にした「あつみ小唄」でも「花の湯の町…」と唄われているように、春は温泉街を流れる温海川に250本の桜が見事なまでの美しさを見せてくれます。萬国屋の先々代の女将が、当時殺伐としていた温海川にソメイヨシノの桜を植えたのが大正元年。その後、幾度かの災害にあいながらも、現在まで萬国屋の歩みと共に温泉街を見守ってきました。今ではあつみ温泉の春を象徴するものとして、たくさんの人々に愛されています。

 年間12万人ものお客様をお迎えする広々としたロビーに入ると、着物姿で出迎えてくれるにこやかな笑顔にホッとしながら、宿への期待に胸弾む思いがしてきます。お部屋は上品なつくりの落ち着いた和室。光が差し込む大きな窓からは、温泉街の街並みや、宿が所有する山の樹木が、四季折々の景観を見せてくれます。お部屋のテーブルの上に準備されているのは温海名物のお菓子の他に、漆器に入った庄内の漬物四品。これがまた美味しくて、ついついお茶の時間が長くなってしまいます。こんな郷土にこだわった演出もまた、旅先での妙味を実感できる魅力のひとつです。ゆったりとした畳の心地良さと開放感に誘われて、ゴロンと寝そべりたくなるほどにリラックス。特に10階の特別室は格調高い二つの和室とベッドルーム。床暖房が嬉しい温泉露天風呂では、心ゆくまで贅沢な時を満喫できます。

 プライベートなお風呂も心惹かれますが、大浴場もまたおすすめです。3階の大浴場へ向かうアプローチは空中回廊や浮橋を渡る斬新な設計。印象的な宿の思い出となる空間となり、お風呂への道が楽しみとなります。そして湯舟の中でお花見ができる1階の「花美の湯」もまた格別。良質な温泉を風情とともに堪能することができます。

 身も心も潤ったところで、楽しみな夕食です。団体や小グループを除いては、各客室でいただくことができます。マイペースにゆったりと食事を楽しめるシチュエーションは、お料理への期待感を一層高めるようです。あらかじめ伝えておいた時間に、客室係の方が手際良く運ぶ料理は半懐石。庄内でとれる山海の幸は、持ち味を大切にしながら仕上げられています。特に春はコゴミ、あいだけ、しどけ、わらび、タラノメと山の味覚が満載です。盛り付けは上品で繊細。目と舌で季節を感じさせてくれるメニューが並びます。

 館内はその他「じょなめーる」「かがぼーし」「ほすばーる」など、方言が生かされた遊び心たっぷりな名前のバーやクラブ、パーティルームが充実。夕食後はそれぞれお好みの過ごし方で温海の一夜が更けていきます。

 この宿の人気の秘密はもてなし。心地良いお部屋に、気持ちの良い心くばりはお客様にとって最高の贅沢と言えます。この宿の接客には業界内でも一目置かれるほど定評があり、従業員は新人もベテランも接客への勉強は欠かしません。そんな熱心に取り組む姿勢が、快適な空間を生み出しているに違いないのです。

 大きな宿だからこそ味わえる醍醐味と、暖かな雰囲気と行き届いた心づかい。言葉に尽くせない「いい気持ち」を味わえるこの宿には、温海川の桜のように「もてなしの心の花」が咲き誇ります。

特別室の温泉露天風呂。開放感溢れる山の景色を眺め、ゆっくりと湯船に浸かる。肌を撫でる風も心地よい。 格調高い特別室は設備も充実。最上階からの眺めを堪能。
   
特別室のベッドルーム。上品な調度品の中で贅沢気分に浸り、まさに夢心地の一夜。 サウナ、露天風呂完備の大浴場「楽水」。温海岳を眺め、溢れるお湯に体が溶け込んでゆく。
   
美しい放射状の梁や一直線に伸びた柱が独創的な三層吹き抜けのロビー。桜のモチーフが柔らかな光を放つ。 男湯入口へ続く、橋のような設えの廊下。しな織の暖簾をくぐれば、床暖房のある脱衣室。
   
地場の食材は新鮮そのもの。目でも舌でも満足できるメニューの数々に舌鼓を打つ。
 
山形県温海町 あつみ温泉

 あつみ温泉の誕生は遡ること1000有余年。温海岳の麓、温海川の清流沿いに軒を連ねる風格ある旅館の数々。のどかな湯の里を華やかに演出するのは四季折々の景観と食材です。今の時節、山菜や山野草、渓流釣りが楽しめ、7月には鮎釣りが解禁。6月14日・15日は、バラ園祭りで温泉街は賑わいます。
 260年の歴史を誇る「朝市」は、今や山形県の風物詩。4月〜12月、自然の幸が並ぶ広場は、早朝から活気に溢れ、散策にもおすすめです。
(文・高橋江里子)

あつみ温泉 萬国屋

湯の花漂う無色透明のお湯は、浴用の他、飲用にも優れた効能を持つ塩化物・硫酸塩温泉。「萬国屋」は、87年JMAサービス優秀特別賞を受賞。接客マニュアル本『100のおもてなし 100の言葉』の旅館モデルにもなっています。

住所 温海町湯温海丁1
電話番号 0235-43-3333
URL http://bankokuya.jp/
宿泊代 お一人様一泊二食付:18,000円〜
(お部屋のタイプやシーズンにより異なる)
部屋数 150室
チェックイン 15時
チェックアウト 10時

■「庄内湯の宿めぐり」バックナンバー


2003年4月号
湯どの庵
[湯田川温泉]
2003年5月号
游水亭 いさごや
[湯の浜温泉]
2003年6月号
萬国屋
[あつみ温泉]
2003年7月号
珠玉や
[湯田川温泉]
2003年8月号
海辺のお宿 一久
[湯の浜温泉]
2003年9月号
亀や
[湯の浜温泉]
2003年10月号
日本の宿 古窯
[上山温泉]
2003年11月号
天童荘
[天童温泉]
2003年12月号
九兵衛旅館
[湯田川温泉]
2004年1月号
龍の湯
[湯の浜温泉]
2004年2月号
名月荘
[上山温泉]
2004年3月号
たちばなや
[あつみ温泉]

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