コンセプトは「宿に旅する」。 自然体のおもてなしが心を癒して。
はやる心を抑え、そっと格子戸を滑らせると、美しい竹林と石灯篭が静かに佇み、足元を照らす和の明かりが玄関へと誘ってくれます。
ここは湯田川温泉にある宿「湯どの庵」。その昔、竹久夢二が湯田川での常宿にしていたという由緒ある建物は、時を経て、女性客や熟年カップルに愛されるお宿になりました。
玄関に入ると、純和風の外観からは想像できない空間が広がります。奥までまっすぐに伸びた黒の廊下、白い壁と深い色調の柱と梁。和紙から伝わる幻想的な明かりや、随所に置かれた、さりげない小物たち。和と洋が混在したスタイリッシュな空間を演出しています。
まずは靴をぬぎ、ラウンジへ。ハーブティーをいただきながら、チェックインを済ませると、女性スタッフが、この宿のシステムを説明してくれます。ここでは、ゲストのプライベートを邪魔せずに、くつろいでいただくようにと、宿のスタッフがお部屋に入ることはありません。日本旅館にみられる情緒や風情と、ホテルが持つ機能性。その両方が生かされ、「和であり洋である」、そして「古くて新しい」という感覚が見事に融合されています。
つづいて廊下を挟み、庭の見えるリビングルームに足を踏み入れると、和箪笥と個性的な観葉植物がトップライトに照らし出され、ゲストを待ち受けます。柔らかな明かりが奏でる落ち着いた空間。ソファの心地良さとあたりの静寂さに包まれて、時間を忘れて、眺め入ってしまいます。 しかし、のんびりするのはもう少しあとに取っておき、まずはお部屋に落ち着いて、食事やお風呂を余すことなく満喫することにしましょう。 やはり和と洋がバランスよくアレンジされた客室。一段高くなっているベッドコーナーは畳になっていて、足を伸ばしてくつろげます。床暖房が完備され、冬は裸足でもポカポカ。しかも、殺菌効果と空気清浄効果のある炭を床下に敷き詰めて、気持ちよく使えるよう配慮されています。窓には萱の簾が張ってあり、和のテイストたっぷり。心からお客様に安らいでいただくという思いが随所に見られるお部屋です。
そろそろお風呂をいただくとしましょうか。檜風呂と石風呂の二つの内風呂は24時間入浴ができて、夜八時には男女が入れ替わります。無色透明なお湯はとても柔らか。ぬるめですが、肩まで身を沈めていると、徐々に体の芯から温まり、じんわりと汗が出てきます。「一度入ったら、癖になりますよ」と笑って話していた支配人の言葉に納得。浴衣と丹前に着替えて、リラックスし、お食事を待つことにしましょう。浴衣の帯はいい感じ。いくらか伸縮する素材で作られているので、柔らかで絞めやすく、緩みにくいのです。
さあ、いよいよお待ちかねの夕食は、ダイニングルームでいただきます。ジャズが流れる、ほの暗い室内。テーブル中央にトップライトが落ち、運ばれてきたお料理を照らします。庄内の四季の食材をふんだんに使ったお料理は、懐石料理をベースにしたオリジナル創作料理。「えっ、これがお刺身?」と目を疑ってしまう斬新さ。お酒は地酒、ビール、ワインからお好きな銘柄をセレクトしながら、お料理と共に楽しむことができます。そして、食器一つひとつにもセンスが光る嬉しい演出。二人以上のお食事は、欄間や飾り窓、床の間などに大正ロマンが残るお部屋で、ゆったりといただくことができます。
庭の景色をぼんやりと眺めたり、思いっきりお湯に手足を伸ばしたり。ゆったり流れる時に身を委ねる開放感。押しつけがましくなく、あくまでもさりげなく。そんな居心地の良さが「また来よう」の気持ちにさせるんですね。庄内にもう一つ故郷を見つけたような気持ちになりました。 |